万葉集|第10巻の和歌一覧

万葉集の第10巻を一覧にまとめました。

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万葉集第10巻一覧

1812 ひさかたの天の香具山この夕霞たなびく春立つらしも
1813 巻向の桧原に立てる春霞おほにし思はばなづみ来めやも
1814 いにしへの人の植ゑけむ杉が枝に霞たなびく春は来ぬらし
1815 子らが手を巻向山に春されば木の葉しのぎて霞たなびく
1816 玉かぎる夕さり来ればさつ人の弓月が岳に霞たなびく
1817 今朝行きて明日には来なむと云子鹿丹朝妻山に霞たなびく
1818 子らが名に懸けのよろしき朝妻の片山崖に霞たなびく
1819 うち靡く春立ちぬらし我が門の柳の末に鴬鳴きつ
1820 梅の花咲ける岡辺に家居れば乏しくもあらず鴬の声
1821 春霞流るるなへに青柳の枝くひ持ちて鴬鳴くも
1822 我が背子を莫越の山の呼子鳥君呼び返せ夜の更けぬとに
1823 朝ゐでに来鳴く貌鳥汝れだにも君に恋ふれや時終へず鳴く
1824 冬こもり春さり来ればあしひきの山にも野にも鴬鳴くも
1825 紫草の根延ふ横野の春野には君を懸けつつ鴬鳴くも
1826 春されば妻を求むと鴬の木末を伝ひ鳴きつつもとな
1827 春日なる羽がひの山ゆ佐保の内へ鳴き行くなるは誰れ呼子鳥
1828 答へぬにな呼び響めそ呼子鳥佐保の山辺を上り下りに
1829 梓弓春山近く家居れば継ぎて聞くらむ鴬の声
1830 うち靡く春さり来れば小竹の末に尾羽打ち触れて鴬鳴くも
1831 朝霧にしののに濡れて呼子鳥三船の山ゆ鳴き渡る見ゆ
1832 うち靡く春さり来ればしかすがに天雲霧らひ雪は降りつつ
1833 梅の花降り覆ふ雪を包み持ち君に見せむと取れば消につつ
1834 梅の花咲き散り過ぎぬしかすがに白雪庭に降りしきりつつ
1835 今さらに雪降らめやもかぎろひの燃ゆる春へとなりにしものを
1836 風交り雪は降りつつしかすがに霞たなびき春さりにけり
1837 山の際に鴬鳴きてうち靡く春と思へど雪降りしきぬ
1838 峰の上に降り置ける雪し風の共ここに散るらし春にはあれども
1839 君がため山田の沢にゑぐ摘むと雪消の水に裳の裾濡れぬ
1840 梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽白妙に沫雪ぞ降る
1841 山高み降り来る雪を梅の花散りかも来ると思ひつるかも[一云梅の花咲きかも散ると]
1842 雪をおきて梅をな恋ひそあしひきの山片付きて家居せる君
1843 昨日こそ年は果てしか春霞春日の山に早立ちにけり
1844 冬過ぎて春来るらし朝日さす春日の山に霞たなびく
1845 鴬の春になるらし春日山霞たなびく夜目に見れども
1846 霜枯れの冬の柳は見る人のかづらにすべく萌えにけるかも
1847 浅緑染め懸けたりと見るまでに春の柳は萌えにけるかも
1848 山の際に雪は降りつつしかすがにこの川楊は萌えにけるかも
1849 山の際の雪は消ずあるをみなぎらふ川の沿ひには萌えにけるかも
1850 朝な朝な我が見る柳鴬の来居て鳴くべく森に早なれ
1851 青柳の糸のくはしさ春風に乱れぬい間に見せむ子もがも
1852 ももしきの大宮人のかづらけるしだり柳は見れど飽かぬかも
1853 梅の花取り持ち見れば我が宿の柳の眉し思ほゆるかも
1854 鴬の木伝ふ梅のうつろへば桜の花の時かたまけぬ
1855 桜花時は過ぎねど見る人の恋ふる盛りと今し散るらむ
1856 我がかざす柳の糸を吹き乱る風にか妹が梅の散るらむ
1857 年のはに梅は咲けどもうつせみの世の人我れし春なかりけり
1858 うつたへに鳥は食まねど縄延へて守らまく欲しき梅の花かも
1859 馬並めて多賀の山辺を白栲ににほはしたるは梅の花かも
1860 花咲きて実はならねども長き日に思ほゆるかも山吹の花
1861 能登川の水底さへに照るまでに御笠の山は咲きにけるかも
1862 雪見ればいまだ冬なりしかすがに春霞立ち梅は散りつつ
1863 去年咲きし久木今咲くいたづらに地にか落ちむ見る人なしに
1864 あしひきの山の際照らす桜花この春雨に散りゆかむかも
1865 うち靡く春さり来らし山の際の遠き木末の咲きゆく見れば
1866 雉鳴く高円の辺に桜花散りて流らふ見む人もがも
1867 阿保山の桜の花は今日もかも散り乱ふらむ見る人なしに
1868 かはづ鳴く吉野の川の滝の上の馬酔木の花ぞはしに置くなゆめ
1869 春雨に争ひかねて我が宿の桜の花は咲きそめにけり
1870 春雨はいたくな降りそ桜花いまだ見なくに散らまく惜しも
1871 春されば散らまく惜しき梅の花しましは咲かずふふみてもがも
1872 見わたせば春日の野辺に霞立ち咲きにほへるは桜花かも
1873 いつしかもこの夜の明けむ鴬の木伝ひ散らす梅の花見む
1874 春霞たなびく今日の夕月夜清く照るらむ高松の野に
1875 春されば木の木の暗の夕月夜おほつかなしも山蔭にして[一云春されば木の暗多み夕月夜]
1876 朝霞春日の暮は木の間より移ろふ月をいつとか待たむ
1877 春の雨にありけるものを立ち隠り妹が家道にこの日暮らしつ
1878 今行きて聞くものにもが明日香川春雨降りてたぎつ瀬の音を
1879 春日野に煙立つ見ゆ娘子らし春野のうはぎ摘みて煮らしも
1880 春日野の浅茅が上に思ふどち遊ぶ今日の日忘らえめやも
1881 春霞立つ春日野を行き返り我れは相見むいや年のはに
1882 春の野に心延べむと思ふどち来し今日の日は暮れずもあらぬか
1883 ももしきの大宮人は暇あれや梅をかざしてここに集へる
1884 冬過ぎて春し来れば年月は新たなれども人は古りゆく
1885 物皆は新たしきよしただしくも人は古りにしよろしかるべし
1886 住吉の里行きしかば春花のいやめづらしき君に逢へるかも
1887 春日なる御笠の山に月も出でぬかも佐紀山に咲ける桜の花の見ゆべく
1888 白雪の常敷く冬は過ぎにけらしも春霞たなびく野辺の鴬鳴くも
1889 我が宿の毛桃の下に月夜さし下心よしうたてこのころ
1890 春山の友鴬の泣き別れ帰ります間も思ほせ我れを
1891 冬こもり春咲く花を手折り持ち千たびの限り恋ひわたるかも
1892 春山の霧に惑へる鴬も我れにまさりて物思はめやも
1893 出でて見る向ひの岡に本茂く咲きたる花のならずはやまじ
1894 霞立つ春の長日を恋ひ暮らし夜も更けゆくに妹も逢はぬかも
1895 春さればまづさきくさの幸くあらば後にも逢はむな恋ひそ我妹
1896 春さればしだり柳のとををにも妹は心に乗りにけるかも
1897 春さればもずの草ぐき見えずとも我れは見やらむ君があたりをば
1898 貌鳥の間なくしば鳴く春の野の草根の繁き恋もするかも
1899 春されば卯の花ぐたし我が越えし妹が垣間は荒れにけるかも
1900 梅の花咲き散る園に我れ行かむ君が使を片待ちがてり
1901 藤波の咲く春の野に延ふ葛の下よし恋ひば久しくもあらむ
1902 春の野に霞たなびき咲く花のかくなるまでに逢はぬ君かも
1903 我が背子に我が恋ふらくは奥山の馬酔木の花の今盛りなり
1904 梅の花しだり柳に折り交へ花に供へば君に逢はむかも
1905 をみなへし佐紀野に生ふる白つつじ知らぬこともち言はえし我が背
1906 梅の花我れは散らさじあをによし奈良なる人も来つつ見るがね
1907 かくしあらば何か植ゑけむ山吹のやむ時もなく恋ふらく思へば
1908 春されば水草の上に置く霜の消につつも我れは恋ひわたるかも
1909 春霞山にたなびきおほほしく妹を相見て後恋ひむかも
1910 春霞立ちにし日より今日までに我が恋やまず本の繁けば[一云片思にして]
1911 さ丹つらふ妹を思ふと霞立つ春日もくれに恋ひわたるかも
1912 たまきはる我が山の上に立つ霞立つとも居とも君がまにまに
1913 見わたせば春日の野辺に立つ霞見まくの欲しき君が姿か
1914 恋ひつつも今日は暮らしつ霞立つ明日の春日をいかに暮らさむ
1915 我が背子に恋ひてすべなみ春雨の降るわき知らず出でて来しかも
1916 今さらに君はい行かじ春雨の心を人の知らずあらなくに
1917 春雨に衣はいたく通らめや七日し降らば七日来じとや
1918 梅の花散らす春雨いたく降る旅にや君が廬りせるらむ
1919 国栖らが春菜摘むらむ司馬の野のしばしば君を思ふこのころ
1920 春草の繁き我が恋大海の辺に行く波の千重に積もりぬ
1921 おほほしく君を相見て菅の根の長き春日を恋ひわたるかも
1922 梅の花咲きて散りなば我妹子を来むか来じかと我が松の木ぞ
1923 白真弓今春山に行く雲の行きや別れむ恋しきものを
1924 大夫の伏し居嘆きて作りたるしだり柳のかづらせ我妹
1925 朝戸出の君が姿をよく見ずて長き春日を恋ひや暮らさむ
1926 春山の馬酔木の花の悪しからぬ君にはしゑや寄そるともよし
1927 石上布留の神杉神びにし我れやさらさら恋にあひにける
1928 さのかたは実にならずとも花のみに咲きて見えこそ恋のなぐさに
1929 さのかたは実になりにしを今さらに春雨降りて花咲かめやも
1930 梓弓引津の辺なるなのりその花咲くまでに逢はぬ君かも
1931 川の上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも
1932 春雨のやまず降る降る我が恋ふる人の目すらを相見せなくに
1933 我妹子に恋ひつつ居れば春雨のそれも知るごとやまず降りつつ
1934 相思はぬ妹をやもとな菅の根の長き春日を思ひ暮らさむ
1935 春さればまづ鳴く鳥の鴬の言先立ちし君をし待たむ
1936 相思はずあるらむ子ゆゑ玉の緒の長き春日を思ひ暮らさく
1937 大夫の出で立ち向ふ故郷の神なび山に明けくれば柘のさ枝に夕されば小松が末に里人の聞き恋ふるまで山彦の相響むまで霍公鳥妻恋ひすらしさ夜中に鳴く
1938 旅にして妻恋すらし霍公鳥神なび山にさ夜更けて鳴く
1939 霍公鳥汝が初声は我れにもが五月の玉に交へて貫かむ
1940 朝霞たなびく野辺にあしひきの山霍公鳥いつか来鳴かむ
1941 朝霧の八重山越えて呼子鳥鳴きや汝が来る宿もあらなくに
1942 霍公鳥鳴く声聞くや卯の花の咲き散る岡に葛引く娘女
1943 月夜よみ鳴く霍公鳥見まく欲り我れ草取れり見む人もがも
1944 藤波の散らまく惜しみ霍公鳥今城の岡を鳴きて越ゆなり
1945 朝霧の八重山越えて霍公鳥卯の花辺から鳴きて越え来ぬ
1946 木高くはかつて木植ゑじ霍公鳥来鳴き響めて恋まさらしむ
1947 逢ひかたき君に逢へる夜霍公鳥他時ゆは今こそ鳴かめ
1948 木の暗の夕闇なるに[一云なれば]霍公鳥いづくを家と鳴き渡るらむ
1949 霍公鳥今朝の朝明に鳴きつるは君聞きけむか朝寐か寝けむ
1950 霍公鳥花橘の枝に居て鳴き響もせば花は散りつつ
1951 うれたきや醜霍公鳥今こそば声の嗄るがに来鳴き響めめ
1952 今夜のおほつかなきに霍公鳥鳴くなる声の音の遥けさ
1953 五月山卯の花月夜霍公鳥聞けども飽かずまた鳴かぬかも
1954 霍公鳥来居も鳴かぬか我がやどの花橘の地に落ちむ見む
1955 霍公鳥いとふ時なしあやめぐさかづらにせむ日こゆ鳴き渡れ
1956 大和には鳴きてか来らむ霍公鳥汝が鳴くごとになき人思ほゆ
1957 卯の花の散らまく惜しみ霍公鳥野に出で山に入り来鳴き響もす
1958 橘の林を植ゑむ霍公鳥常に冬まで棲みわたるがね
1959 雨晴れの雲にたぐひて霍公鳥春日をさしてこゆ鳴き渡る
1960 物思ふと寐ねぬ朝明に霍公鳥鳴きてさ渡るすべなきまでに
1961 我が衣を君に着せよと霍公鳥我れをうながす袖に来居つつ
1962 本つ人霍公鳥をやめづらしく今か汝が来る恋ひつつ居れば
1963 かくばかり雨の降らくに霍公鳥卯の花山になほか鳴くらむ
1964 黙もあらむ時も鳴かなむひぐらしの物思ふ時に鳴きつつもとな
1965 思ふ子が衣摺らむににほひこそ島の榛原秋立たずとも
1966 風に散る花橘を袖に受けて君がみ跡と偲ひつるかも
1967 かぐはしき花橘を玉に貫き贈らむ妹はみつれてもあるか
1968 霍公鳥来鳴き響もす橘の花散る庭を見む人や誰れ
1969 我が宿の花橘は散りにけり悔しき時に逢へる君かも
1970 見わたせば向ひの野辺のなでしこの散らまく惜しも雨な降りそね
1971 雨間明けて国見もせむを故郷の花橘は散りにけむかも
1972 野辺見ればなでしこの花咲きにけり我が待つ秋は近づくらしも
1973 我妹子に楝の花は散り過ぎず今咲けるごとありこせぬかも
1974 春日野の藤は散りにて何をかもみ狩の人の折りてかざさむ
1975 時ならず玉をぞ貫ける卯の花の五月を待たば久しくあるべみ
1976 卯の花の咲き散る岡ゆ霍公鳥鳴きてさ渡る君は聞きつや
1977 聞きつやと君が問はせる霍公鳥しののに濡れてこゆ鳴き渡る
1978 橘の花散る里に通ひなば山霍公鳥響もさむかも
1979 春さればすがるなす野の霍公鳥ほとほと妹に逢はず来にけり
1980 五月山花橘に霍公鳥隠らふ時に逢へる君かも
1981 霍公鳥来鳴く五月の短夜もひとりし寝れば明かしかねつも
1982 ひぐらしは時と鳴けども片恋にたわや女我れは時わかず泣く
1983 人言は夏野の草の繁くとも妹と我れとし携はり寝ば
1984 このころの恋の繁けく夏草の刈り掃へども生ひしくごとし
1985 ま葛延ふ夏野の繁くかく恋ひばまこと我が命常ならめやも
1986 我れのみやかく恋すらむかきつはた丹つらふ妹はいかにかあるらむ
1987 片縒りに糸をぞ我が縒る我が背子が花橘を貫かむと思ひて
1988 鴬の通ふ垣根の卯の花の憂きことあれや君が来まさぬ
1989 卯の花の咲くとはなしにある人に恋ひやわたらむ片思にして
1990 我れこそば憎くもあらめ我がやどの花橘を見には来じとや
1991 霍公鳥来鳴き響もす岡辺なる藤波見には君は来じとや
1992 隠りのみ恋ふれば苦しなでしこの花に咲き出よ朝な朝な見む
1993 外のみに見つつ恋ひなむ紅の末摘花の色に出でずとも
1994 夏草の露別け衣着けなくに我が衣手の干る時もなき
1995 六月の地さへ裂けて照る日にも我が袖干めや君に逢はずして
1996 天の川水さへに照る舟泊てて舟なる人は妹と見えきや
1997 久方の天の川原にぬえ鳥のうら歎げましつすべなきまでに
1998 我が恋を嬬は知れるを行く舟の過ぎて来べしや言も告げなむ
1999 赤らひく色ぐはし子をしば見れば人妻ゆゑに我れ恋ひぬべし
2000 天の川安の渡りに舟浮けて秋立つ待つと妹に告げこそ
2001 大空ゆ通ふ我れすら汝がゆゑに天の川道をなづみてぞ来し
2002 八千桙の神の御代よりともし妻人知りにけり継ぎてし思へば
2003 我が恋ふる丹のほの面わこよひもか天の川原に石枕まく
2004 己夫にともしき子らは泊てむ津の荒礒巻きて寝む君待ちかてに
2005 天地と別れし時ゆ己が妻しかぞ年にある秋待つ我れは
2006 彦星は嘆かす妻に言だにも告げにぞ来つる見れば苦しみ
2007 ひさかたの天つしるしと水無し川隔てて置きし神代し恨めし
2008 ぬばたまの夜霧に隠り遠くとも妹が伝へは早く告げこそ
2009 汝が恋ふる妹の命は飽き足らに袖振る見えつ雲隠るまで
2010 夕星も通ふ天道をいつまでか仰ぎて待たむ月人壮士
2011 天の川い向ひ立ちて恋しらに言だに告げむ妻と言ふまでは
2012 白玉の五百つ集ひを解きもみず我は干しかてぬ逢はむ日待つに
2013 天の川水蔭草の秋風に靡かふ見れば時は来にけり
2014 我が待ちし秋萩咲きぬ今だにもにほひに行かな彼方人に
2015 我が背子にうら恋ひ居れば天の川夜舟漕ぐなる楫の音聞こゆ
2016 ま日長く恋ふる心ゆ秋風に妹が音聞こゆ紐解き行かな
2017 恋ひしくは日長きものを今だにもともしむべしや逢ふべき夜だに
2018 天の川去年の渡りで移ろへば川瀬を踏むに夜ぞ更けにける
2019 いにしへゆあげてし服も顧みず天の川津に年ぞ経にける
2020 天の川夜船を漕ぎて明けぬとも逢はむと思ふ夜袖交へずあらむ
2021 遠妻と手枕交へて寝たる夜は鶏がねな鳴き明けば明けぬとも
2022 相見らく飽き足らねどもいなのめの明けさりにけり舟出せむ妻
2023 さ寝そめていくだもあらねば白栲の帯乞ふべしや恋も過ぎねば
2024 万代にたづさはり居て相見とも思ひ過ぐべき恋にあらなくに
2025 万代に照るべき月も雲隠り苦しきものぞ逢はむと思へど
2026 白雲の五百重に隠り遠くとも宵さらず見む妹があたりは
2027 我がためと織女のそのやどに織る白栲は織りてけむかも
2028 君に逢はず久しき時ゆ織る服の白栲衣垢付くまでに
2029 天の川楫の音聞こゆ彦星と織女と今夜逢ふらしも
2030 秋されば川霧立てる天の川川に向き居て恋ふる夜ぞ多き
2031 よしゑやし直ならずともぬえ鳥のうら嘆げ居りと告げむ子もがも
2032 一年に七日の夜のみ逢ふ人の恋も過ぎねば夜は更けゆくも[一云尽きねばさ夜ぞ明けにける]
2033 天の川安の川原定而神競者磨待無
2034 織女の五百機立てて織る布の秋さり衣誰れか取り見む
2035 年にありて今か巻くらむぬばたまの夜霧隠れる遠妻の手を
2036 我が待ちし秋は来りぬ妹と我れと何事あれぞ紐解かずあらむ
2037 年の恋今夜尽して明日よりは常のごとくや我が恋ひ居らむ
2038 逢はなくは日長きものを天の川隔ててまたや我が恋ひ居らむ
2039 恋しけく日長きものを逢ふべくある宵だに君が来まさずあるらむ
2040 彦星と織女と今夜逢ふ天の川門に波立つなゆめ
2041 秋風の吹きただよはす白雲は織女の天つ領巾かも
2042 しばしばも相見ぬ君を天の川舟出早せよ夜の更けぬ間に
2043 秋風の清き夕に天の川舟漕ぎ渡る月人壮士
2044 天の川霧立ちわたり彦星の楫の音聞こゆ夜の更けゆけば
2045 君が舟今漕ぎ来らし天の川霧立ちわたるこの川の瀬に
2046 秋風に川波立ちぬしましくは八十の舟津にみ舟留めよ
2047 天の川川の音清し彦星の秋漕ぐ舟の波のさわきか
2048 天の川川門に立ちて我が恋ひし君来ますなり紐解き待たむ[一云天の川川に向き立ち]
2049 天の川川門に居りて年月を恋ひ来し君に今夜逢へるかも
2050 明日よりは我が玉床をうち掃ひ君と寐ねずてひとりかも寝む
2051 天の原行きて射てむと白真弓引きて隠れる月人壮士
2052 この夕降りくる雨は彦星の早漕ぐ舟の櫂の散りかも
2053 天の川八十瀬霧らへり彦星の時待つ舟は今し漕ぐらし
2054 風吹きて川波立ちぬ引き船に渡りも来ませ夜の更けぬ間に
2055 天の川遠き渡りはなけれども君が舟出は年にこそ待て
2056 天の川打橋渡せ妹が家道やまず通はむ時待たずとも
2057 月重ね我が思ふ妹に逢へる夜は今し七夜を継ぎこせぬかも
2058 年に装ふ我が舟漕がむ天の川風は吹くとも波立つなゆめ
2059 天の川波は立つとも我が舟はいざ漕ぎ出でむ夜の更けぬ間に
2060 ただ今夜逢ひたる子らに言どひもいまだせずしてさ夜ぞ明けにける
2061 天の川白波高し我が恋ふる君が舟出は今しすらしも
2062 機物のまね木持ち行きて天の川打橋渡す君が来むため
2063 天の川霧立ち上る織女の雲の衣のかへる袖かも
2064 いにしへゆ織りてし服をこの夕衣に縫ひて君待つ我れを
2065 足玉も手玉もゆらに織る服を君が御衣に縫ひもあへむかも
2066 月日えり逢ひてしあれば別れまく惜しくある君は明日さへもがも
2067 天の川渡り瀬深み舟浮けて漕ぎ来る君が楫の音聞こゆ
2068 天の原降り放け見れば天の川霧立ちわたる君は来ぬらし
2069 天の川瀬ごとに幣をたてまつる心は君を幸く来ませと
2070 久方の天の川津に舟浮けて君待つ夜らは明けずもあらぬか
2071 天の川なづさひ渡る君が手もいまだまかねば夜の更けぬらく
2072 渡り守舟渡せをと呼ぶ声の至らねばかも楫の音のせぬ
2073 ま日長く川に向き立ちありし袖今夜巻かむと思はくがよさ
2074 天の川渡り瀬ごとに思ひつつ来しくもしるし逢へらく思へば
2075 人さへや見継がずあらむ彦星の妻呼ぶ舟の近づき行くを[一云見つつあるらむ]
2076 天の川瀬を早みかもぬばたまの夜は更けにつつ逢はぬ彦星
2077 渡り守舟早渡せ一年にふたたび通ふ君にあらなくに
2078 玉葛絶えぬものからさ寝らくは年の渡りにただ一夜のみ
2079 恋ふる日は日長きものを今夜だにともしむべしや逢ふべきものを
2080 織女の今夜逢ひなば常のごと明日を隔てて年は長けむ
2081 天の川棚橋渡せ織女のい渡らさむに棚橋渡せ
2082 天の川川門八十ありいづくにか君がみ舟を我が待ち居らむ
2083 秋風の吹きにし日より天の川瀬に出で立ちて待つと告げこそ
2084 天の川去年の渡り瀬荒れにけり君が来まさむ道の知らなく
2085 天の川瀬々に白波高けども直渡り来ぬ待たば苦しみ
2086 彦星の妻呼ぶ舟の引き綱の絶えむと君を我が思はなくに
2087 渡り守舟出し出でむ今夜のみ相見て後は逢はじものかも
2088 我が隠せる楫棹なくて渡り守舟貸さめやもしましはあり待て
2089 天地の初めの時ゆ天の川い向ひ居りて一年にふたたび逢はぬ妻恋ひに物思ふ人天の川安の川原のあり通ふ出の渡りにそほ舟の艫にも舳にも舟装ひま楫しじ貫き旗すすき本葉もそよに秋風の吹きくる宵に天の川白波しのぎ落ちたぎつ早瀬渡りて若草の妻を巻かむと大船の思ひ頼みて漕ぎ来らむその夫の子があらたまの年の緒長く思ひ来し恋尽すらむ七月の七日の宵は我れも悲しも
2090 高麗錦紐解きかはし天人の妻問ふ宵ぞ我れも偲はむ
2091 彦星の川瀬を渡るさ小舟のえ行きて泊てむ川津し思ほゆ
2092 天地と別れし時ゆ久方の天つしるしと定めてし天の川原にあらたまの月重なりて妹に逢ふ時さもらふと立ち待つに我が衣手に秋風の吹きかへらへば立ちて居てたどきを知らにむらきもの心いさよひ解き衣の思ひ乱れていつしかと我が待つ今夜この川の流れの長くありこせぬかも
2093 妹に逢ふ時片待つとひさかたの天の川原に月ぞ経にける
2094 さを鹿の心相思ふ秋萩のしぐれの降るに散らくし惜しも
2095 夕されば野辺の秋萩うら若み露にぞ枯るる秋待ちかてに
2096 真葛原靡く秋風吹くごとに阿太の大野の萩の花散る
2097 雁がねの来鳴かむ日まで見つつあらむこの萩原に雨な降りそね
2098 奥山に棲むといふ鹿の夕さらず妻どふ萩の散らまく惜しも
2099 白露の置かまく惜しみ秋萩を折りのみ折りて置きや枯らさむ
2100 秋田刈る仮廬の宿りにほふまで咲ける秋萩見れど飽かぬかも
2101 我が衣摺れるにはあらず高松の野辺行きしかば萩の摺れるぞ
2102 この夕秋風吹きぬ白露に争ふ萩の明日咲かむ見む
2103 秋風は涼しくなりぬ馬並めていざ野に行かな萩の花見に
2104 朝顔は朝露負ひて咲くといへど夕影にこそ咲きまさりけれ
2105 春されば霞隠りて見えずありし秋萩咲きぬ折りてかざさむ
2106 沙額田の野辺の秋萩時なれば今盛りなり折りてかざさむ
2107 ことさらに衣は摺らじをみなへし佐紀野の萩ににほひて居らむ
2108 秋風は疾く疾く吹き来萩の花散らまく惜しみ競ひ立たむ見む
2109 我が宿の萩の末長し秋風の吹きなむ時に咲かむと思ひて
2110 人皆は萩を秋と言ふよし我れは尾花が末を秋とは言はむ
2111 玉梓の君が使の手折り来るこの秋萩は見れど飽かぬかも
2112 我がやどに咲ける秋萩常ならば我が待つ人に見せましものを
2113 手寸十名相植ゑしなしるく出で見れば宿の初萩咲きにけるかも
2114 我が宿に植ゑ生ほしたる秋萩を誰れか標刺す我れに知らえず
2115 手に取れば袖さへにほふをみなへしこの白露に散らまく惜しも
2116 白露に争ひかねて咲ける萩散らば惜しけむ雨な降りそね
2117 娘女らに行相の早稲を刈る時になりにけらしも萩の花咲く
2118 朝霧のたなびく小野の萩の花今か散るらむいまだ飽かなくに
2119 恋しくは形見にせよと我が背子が植ゑし秋萩花咲きにけり
2120 秋萩に恋尽さじと思へどもしゑやあたらしまたも逢はめやも
2121 秋風は日に異に吹きぬ高円の野辺の秋萩散らまく惜しも
2122 大夫の心はなしに秋萩の恋のみにやもなづみてありなむ
2123 我が待ちし秋は来たりぬしかれども萩の花ぞもいまだ咲かずける
2124 見まく欲り我が待ち恋ひし秋萩は枝もしみみに花咲きにけり
2125 春日野の萩し散りなば朝東風の風にたぐひてここに散り来ね
2126 秋萩は雁に逢はじと言へればか[一云言へれかも]声を聞きては花に散りぬる
2127 秋さらば妹に見せむと植ゑし萩露霜負ひて散りにけるかも
2128 秋風に大和へ越ゆる雁がねはいや遠ざかる雲隠りつつ
2129 明け暮れの朝霧隠り鳴きて行く雁は我が恋妹に告げこそ
2130 我が宿に鳴きし雁がね雲の上に今夜鳴くなり国へかも行く
2131 さを鹿の妻どふ時に月をよみ雁が音聞こゆ今し来らしも
2132 天雲の外に雁が音聞きしよりはだれ霜降り寒しこの夜は[一云いやますますに恋こそまされ]
2133 秋の田の我が刈りばかの過ぎぬれば雁が音聞こゆ冬かたまけて
2134 葦辺なる荻の葉さやぎ秋風の吹き来るなへに雁鳴き渡る[一云秋風に雁が音聞こゆ今し来らしも]
2135 おしてる難波堀江の葦辺には雁寝たるかも霜の降らくに
2136 秋風に山飛び越ゆる雁がねの声遠ざかる雲隠るらし
2137 朝に行く雁の鳴く音は我がごとく物思へれかも声の悲しき
2138 鶴がねの今朝鳴くなへに雁がねはいづくさしてか雲隠るらむ
2139 ぬばたまの夜渡る雁はおほほしく幾夜を経てかおのが名を告る
2140 あらたまの年の経ゆけばあどもふと夜渡る我れを問ふ人や誰れ
2141 このころの秋の朝明に霧隠り妻呼ぶ鹿の声のさやけさ
2142 さを鹿の妻ととのふと鳴く声の至らむ極み靡け萩原
2143 君に恋ひうらぶれ居れば敷の野の秋萩しのぎさを鹿鳴くも
2144 雁は来ぬ萩は散りぬとさを鹿の鳴くなる声もうらぶれにけり
2145 秋萩の恋も尽きねばさを鹿の声い継ぎい継ぎ恋こそまされ
2146 山近く家や居るべきさを鹿の声を聞きつつ寐ねかてぬかも
2147 山の辺にい行くさつ男は多かれど山にも野にもさを鹿鳴くも
2148 あしひきの山より来せばさを鹿の妻呼ぶ声を聞かましものを
2149 山辺にはさつ男のねらひ畏けどを鹿鳴くなり妻が目を欲り
2150 秋萩の散りゆく見ればおほほしみ妻恋すらしさを鹿鳴くも
2151 山遠き都にしあればさを鹿の妻呼ぶ声は乏しくもあるか
2152 秋萩の散り過ぎゆかばさを鹿はわび鳴きせむな見ずはともしみ
2153 秋萩の咲きたる野辺はさを鹿ぞ露を別けつつ妻どひしける
2154 なぞ鹿のわび鳴きすなるけだしくも秋野の萩や繁く散るらむ
2155 秋萩の咲たる野辺にさを鹿は散らまく惜しみ鳴き行くものを
2156 あしひきの山の常蔭に鳴く鹿の声聞かすやも山田守らす子
2157 夕影に来鳴くひぐらしここだくも日ごとに聞けど飽かぬ声かも
2158 秋風の寒く吹くなへ我が宿の浅茅が本にこほろぎ鳴くも
2159 蔭草の生ひたる宿の夕影に鳴くこほろぎは聞けど飽かぬかも
2160 庭草に村雨降りてこほろぎの鳴く声聞けば秋づきにけり
2161 み吉野の岩もとさらず鳴くかはづうべも鳴きけり川をさやけみ
2162 神なびの山下響み行く水にかはづ鳴くなり秋と言はむとや
2163 草枕旅に物思ひ我が聞けば夕かたまけて鳴くかはづかも
2164 瀬を早み落ちたぎちたる白波にかはづ鳴くなり朝夕ごとに
2165 上つ瀬にかはづ妻呼ぶ夕されば衣手寒み妻まかむとか
2166 妹が手を取石の池の波の間ゆ鳥が音異に鳴く秋過ぎぬらし
2167 秋の野の尾花が末に鳴くもずの声聞きけむか片聞け我妹
2168 秋萩に置ける白露朝な朝な玉としぞ見る置ける白露
2169 夕立ちの雨降るごとに[一云うち降れば]春日野の尾花が上の白露思ほゆ
2170 秋萩の枝もとををに露霜置き寒くも時はなりにけるかも
2171 白露と秋萩とには恋ひ乱れ別くことかたき我が心かも
2172 我が宿の尾花押しなべ置く露に手触れ我妹子散らまくも見む
2173 白露を取らば消ぬべしいざ子ども露に競ひて萩の遊びせむ
2174 秋田刈る仮廬を作り我が居れば衣手寒く露ぞ置きにける
2175 このころの秋風寒し萩の花散らす白露置きにけらしも
2176 秋田刈る苫手動くなり白露し置く穂田なしと告げに来ぬらし[一云告げに来らしも]
2177 春は萌え夏は緑に紅のまだらに見ゆる秋の山かも
2178 妻ごもる矢野の神山露霜ににほひそめたり散らまく惜しも
2179 朝露ににほひそめたる秋山にしぐれな降りそありわたるがね
2180 九月のしぐれの雨に濡れ通り春日の山は色づきにけり
2181 雁が音の寒き朝明の露ならし春日の山をもみたすものは
2182 このころの暁露に我がやどの萩の下葉は色づきにけり
2183 雁がねは今は来鳴きぬ我が待ちし黄葉早継げ待たば苦しも
2184 秋山をゆめ人懸くな忘れにしその黄葉の思ほゆらくに
2185 大坂を我が越え来れば二上に黄葉流るしぐれ降りつつ
2186 秋されば置く白露に我が門の浅茅が末葉色づきにけり
2187 妹が袖巻来の山の朝露ににほふ黄葉の散らまく惜しも
2188 黄葉のにほひは繁ししかれども妻梨の木を手折りかざさむ
2189 露霜の寒き夕の秋風にもみちにけらし妻梨の木は
2190 我が門の浅茅色づく吉隠の浪柴の野の黄葉散るらし
2191 雁が音を聞きつるなへに高松の野の上の草ぞ色づきにける
2192 我が背子が白栲衣行き触ればにほひぬべくももみつ山かも
2193 秋風の日に異に吹けば水茎の岡の木の葉も色づきにけり
2194 雁がねの来鳴きしなへに韓衣龍田の山はもみちそめたり
2195 雁がねの声聞くなへに明日よりは春日の山はもみちそめなむ
2196 しぐれの雨間なくし降れば真木の葉も争ひかねて色づきにけり
2197 いちしろくしぐれの雨は降らなくに大城の山は色づきにけり[謂大城山者在筑前<國>御笠郡之大野山頂号曰大城者也]
2198 風吹けば黄葉散りつつすくなくも吾の松原清くあらなくに
2199 物思ふと隠らひ居りて今日見れば春日の山は色づきにけり
2200 九月の白露負ひてあしひきの山のもみたむ見まくしもよし
2201 妹がりと馬に鞍置きて生駒山うち越え来れば黄葉散りつつ
2202 黄葉する時になるらし月人の桂の枝の色づく見れば
2203 里ゆ異に霜は置くらし高松の野山づかさの色づく見れば
2204 秋風の日に異に吹けば露を重み萩の下葉は色づきにけり
2205 秋萩の下葉もみちぬあらたまの月の経ぬれば風をいたみかも
2206 まそ鏡南淵山は今日もかも白露置きて黄葉散るらむ
2207 我がやどの浅茅色づく吉隠の夏身の上にしぐれ降るらし
2208 雁がねの寒く鳴きしゆ水茎の岡の葛葉は色づきにけり
2209 秋萩の下葉の黄葉花に継ぎ時過ぎゆかば後恋ひむかも
2210 明日香川黄葉流る葛城の山の木の葉は今し散るらし
2211 妹が紐解くと結びて龍田山今こそもみちそめてありけれ
2212 雁がねの寒く鳴きしゆ春日なる御笠の山は色づきにけり
2213 このころの暁露に我が宿の秋の萩原色づきにけり
2214 夕されば雁の越え行く龍田山しぐれに競ひ色づきにけり
2215 さ夜更けてしぐれな降りそ秋萩の本葉の黄葉散らまく惜しも
2216 故郷の初黄葉を手折り持ち今日ぞ我が来し見ぬ人のため
2217 君が家の黄葉は早く散りにけりしぐれの雨に濡れにけらしも
2218 一年にふたたび行かぬ秋山を心に飽かず過ぐしつるかも
2219 あしひきの山田作る子秀でずとも縄だに延へよ守ると知るがね
2220 さを鹿の妻呼ぶ山の岡辺なる早稲田は刈らじ霜は降るとも
2221 我が門に守る田を見れば佐保の内の秋萩すすき思ほゆるかも
2222 夕さらずかはづ鳴くなる三輪川の清き瀬の音を聞かくしよしも
2223 天の海に月の舟浮け桂楫懸けて漕ぐ見ゆ月人壮士
2224 この夜らはさ夜更けぬらし雁が音の聞こゆる空ゆ月立ち渡る
2225 我が背子がかざしの萩に置く露をさやかに見よと月は照るらし
2226 心なき秋の月夜の物思ふと寐の寝らえぬに照りつつもとな
2227 思はぬにしぐれの雨は降りたれど天雲晴れて月夜さやけし
2228 萩の花咲きのををりを見よとかも月夜の清き恋まさらくに
2229 白露を玉になしたる九月の有明の月夜見れど飽かぬかも
2230 恋ひつつも稲葉かき別け家居れば乏しくもあらず秋の夕風
2231 萩の花咲きたる野辺にひぐらしの鳴くなるなへに秋の風吹く
2232 秋山の木の葉もいまだもみたねば今朝吹く風は霜も置きぬべく
2233 高松のこの峰も狭に笠立てて満ち盛りたる秋の香のよさ
2234 一日には千重しくしくに我が恋ふる妹があたりにしぐれ降れ見む
2235 秋田刈る旅の廬りにしぐれ降り我が袖濡れぬ干す人なしに
2236 玉たすき懸けぬ時なし我が恋はしぐれし降らば濡れつつも行かむ
2237 黄葉を散らすしぐれの降るなへに夜さへぞ寒きひとりし寝れば
2238 天飛ぶや雁の翼の覆ひ羽のいづく漏りてか霜の降りけむ
2239 秋山のしたひが下に鳴く鳥の声だに聞かば何か嘆かむ
2240 誰ぞかれと我れをな問ひそ九月の露に濡れつつ君待つ我れを
2241 秋の夜の霧立ちわたりおほほしく夢にぞ見つる妹が姿を
2242 秋の野の尾花が末の生ひ靡き心は妹に寄りにけるかも
2243 秋山に霜降り覆ひ木の葉散り年は行くとも我れ忘れめや
2244 住吉の岸を田に墾り蒔きし稲かくて刈るまで逢はぬ君かも
2245 太刀の後玉纒田居にいつまでか妹を相見ず家恋ひ居らむ
2246 秋の田の穂の上に置ける白露の消ぬべくも我は思ほゆるかも
2247 秋の田の穂向きの寄れる片寄りに我れは物思ふつれなきものを
2248 秋田刈る仮廬を作り廬りしてあるらむ君を見むよしもがも
2249 鶴が音の聞こゆる田居に廬りして我れ旅なりと妹に告げこそ
2250 春霞たなびく田居に廬つきて秋田刈るまで思はしむらく
2251 橘を守部の里の門田早稲刈る時過ぎぬ来じとすらしも
2252 秋萩の咲き散る野辺の夕露に濡れつつ来ませ夜は更けぬとも
2253 色づかふ秋の露霜な降りそね妹が手本をまかぬ今夜は
2254 秋萩の上に置きたる白露の消かもしなまし恋ひつつあらずは
2255 我が宿の秋萩の上に置く露のいちしろくしも我れ恋ひめやも
2256 秋の穂をしのに押しなべ置く露の消かもしなまし恋ひつつあらずは
2257 露霜に衣手濡れて今だにも妹がり行かな夜は更けぬとも
2258 秋萩の枝もとををに置く露の消かもしなまし恋ひつつあらずは
2259 秋萩の上に白露置くごとに見つつぞ偲ふ君が姿を
2260 我妹子は衣にあらなむ秋風の寒きこのころ下に着ましを
2261 泊瀬風かく吹く宵はいつまでか衣片敷き我がひとり寝む
2262 秋萩を散らす長雨の降るころはひとり起き居て恋ふる夜ぞ多き
2263 九月のしぐれの雨の山霧のいぶせき我が胸誰を見ばやまむ[一云十月しぐれの雨降り]
2264 こほろぎの待ち喜ぶる秋の夜を寝る験なし枕と我れは
2265 朝霞鹿火屋が下に鳴くかはづ声だに聞かば我れ恋ひめやも
2266 出でて去なば天飛ぶ雁の泣きぬべみ今日今日と言ふに年ぞ経にける
2267 さを鹿の朝伏す小野の草若み隠らひかねて人に知らゆな
2268 さを鹿の小野の草伏いちしろく我がとはなくに人の知れらく
2269 今夜の暁ぐたち鳴く鶴の思ひは過ぎず恋こそまされ
2270 道の辺の尾花が下の思ひ草今さらさらに何をか思はむ
2271 草深みこほろぎさはに鳴くやどの萩見に君はいつか来まさむ
2272 秋づけば水草の花のあえぬがに思へど知らじ直に逢はざれば
2273 何すとか君をいとはむ秋萩のその初花の嬉しきものを
2274 臥いまろび恋ひは死ぬともいちしろく色には出でじ朝顔の花
2275 言に出でて云はばゆゆしみ朝顔の穂には咲き出ぬ恋もするかも
2276 雁がねの初声聞きて咲き出たる宿の秋萩見に来我が背子
2277 さを鹿の入野のすすき初尾花いづれの時か妹が手まかむ
2278 恋ふる日の日長くしあればみ園生の韓藍の花の色に出でにけり
2279 我が里に今咲く花のをみなへし堪へぬ心になほ恋ひにけり
2280 萩の花咲けるを見れば君に逢はずまことも久になりにけるかも
2281 朝露に咲きすさびたる月草の日くたつなへに消ぬべく思ほゆ
2282 長き夜を君に恋ひつつ生けらずは咲きて散りにし花ならましを
2283 我妹子に逢坂山のはだすすき穂には咲き出ず恋ひわたるかも
2284 いささめに今も見が欲し秋萩のしなひにあるらむ妹が姿を
2285 秋萩の花野のすすき穂には出でず我が恋ひわたる隠り妻はも
2286 我が宿に咲きし秋萩散り過ぎて実になるまでに君に逢はぬかも
2287 我が宿の萩咲きにけり散らぬ間に早来て見べし奈良の里人
2288 石橋の間々に生ひたるかほ花の花にしありけりありつつ見れば
2289 藤原の古りにし里の秋萩は咲きて散りにき君待ちかねて
2290 秋萩を散り過ぎぬべみ手折り持ち見れども寂し君にしあらねば
2291 朝咲き夕は消ぬる月草の消ぬべき恋も我れはするかも
2292 秋津野の尾花刈り添へ秋萩の花を葺かさね君が仮廬に
2293 咲けりとも知らずしあらば黙もあらむこの秋萩を見せつつもとな
2294 秋されば雁飛び越ゆる龍田山立ちても居ても君をしぞ思ふ
2295 我が宿の葛葉日に異に色づきぬ来まさぬ君は何心ぞも
2296 あしひきの山さな葛もみつまで妹に逢はずや我が恋ひ居らむ
2297 黄葉の過ぎかてぬ子を人妻と見つつやあらむ恋しきものを
2298 君に恋ひ萎えうらぶれ我が居れば秋風吹きて月かたぶきぬ
2299 秋の夜の月かも君は雲隠りしましく見ねばここだ恋しき
2300 九月の有明の月夜ありつつも君が来まさば我れ恋ひめやも
2301 よしゑやし恋ひじとすれど秋風の寒く吹く夜は君をしぞ思ふ
2302 ある人のあな心なと思ふらむ秋の長夜を寝覚め臥すのみ
2303 秋の夜を長しと言へど積もりにし恋を尽せば短くありけり
2304 秋つ葉ににほへる衣我れは着じ君に奉らば夜も着るがね
2305 旅にすら紐解くものを言繁みまろ寝ぞ我がする長きこの夜を
2306 しぐれ降る暁月夜紐解かず恋ふらむ君と居らましものを
2307 黄葉に置く白露の色端にも出でじと思へば言の繁けく
2308 雨降ればたぎつ山川岩に触れ君が砕かむ心は持たじ
2309 祝らが斎ふ社の黄葉も標縄越えて散るといふものを
2310 こほろぎの我が床の辺に鳴きつつもとな起き居つつ君に恋ふるに寐ねかてなくに
2311 はだすすき穂には咲き出ぬ恋をぞ我がする玉かぎるただ一目のみ見し人ゆゑに
2312 我が袖に霰た走る巻き隠し消たずてあらむ妹が見むため
2313 あしひきの山かも高き巻向の崖の小松にみ雪降りくる
2314 巻向の桧原もいまだ雲居ねば小松が末ゆ沫雪流る
2315 あしひきの山道も知らず白橿の枝もとををに雪の降れれば[或云枝もたわたわ]
2316 奈良山の嶺なほ霧らふうべしこそ籬が下の雪は消ずけれ
2317 こと降らば袖さへ濡れて通るべく降りなむ雪の空に消につつ
2318 夜を寒み朝戸を開き出で見れば庭もはだらにみ雪降りたり[一云庭もほどろに雪ぞ降りたる]
2319 夕されば衣手寒し高松の山の木ごとに雪ぞ降りたる
2320 我が袖に降りつる雪も流れ行きて妹が手本にい行き触れぬか
2321 沫雪は今日はな降りそ白栲の袖まき干さむ人もあらなくに
2322 はなはだも降らぬ雪ゆゑこちたくも天つみ空は雲らひにつつ
2323 我が背子を今か今かと出で見れば沫雪降れり庭もほどろに
2324 あしひきの山に白きは我が宿に昨日の夕降りし雪かも
2325 誰が園の梅の花ぞもひさかたの清き月夜にここだ散りくる
2326 梅の花まづ咲く枝を手折りてばつとと名付けてよそへてむかも
2327 誰が園の梅にかありけむここだくも咲きてあるかも見が欲しまでに
2328 来て見べき人もあらなくに我家なる梅の初花散りぬともよし
2329 雪寒み咲きには咲かぬ梅の花よしこのころはかくてもあるがね
2330 妹がためほつ枝の梅を手折るとは下枝の露に濡れにけるかも
2331 八田の野の浅茅色づく有乳山嶺の沫雪寒く降るらし
2332 さ夜更けば出で来む月を高山の嶺の白雲隠すらむかも
2333 降る雪の空に消ぬべく恋ふれども逢ふよしなしに月ぞ経にける
2334 沫雪は千重に降りしけ恋ひしくの日長き我れは見つつ偲はむ
2335 咲き出照る梅の下枝に置く露の消ぬべく妹に恋ふるこのころ
2336 はなはだも夜更けてな行き道の辺の斎笹の上に霜の降る夜を
2337 笹の葉にはだれ降り覆ひ消なばかも忘れむと言へばまして思ほゆ
2338 霰降りいたく風吹き寒き夜や旗野に今夜我が独り寝む
2339 吉隠の野木に降り覆ふ白雪のいちしろくしも恋ひむ我れかも
2340 一目見し人に恋ふらく天霧らし降りくる雪の消ぬべく思ほゆ
2341 思ひ出づる時はすべなみ豊国の由布山雪の消ぬべく思ほゆ
2342 夢のごと君を相見て天霧らし降りくる雪の消ぬべく思ほゆ
2343 我が背子が言うるはしみ出でて行かば裳引きしるけむ雪な降りそね
2344 梅の花それとも見えず降る雪のいちしろけむな間使遣らば[一云降る雪に間使遣らばそれと知らなむ]
2345 天霧らひ降りくる雪の消なめども君に逢はむとながらへわたる
2346 うかねらふ跡見山雪のいちしろく恋ひば妹が名人知らむかも
2347 海人小舟泊瀬の山に降る雪の日長く恋ひし君が音ぞする
2348 和射見の嶺行き過ぎて降る雪のいとひもなしと申せその子に
2349 我が宿に咲きたる梅を月夜よみ宵々見せむ君をこそ待て
2350 あしひきの山のあらしは吹かねども君なき宵はかねて寒しも
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万葉集2346番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2346番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2346番について歌番号2346番原文窺良布|跡見山雪之|灼然|戀者妹名|人将知可聞訓読うかねらふ跡見山雪のいちしろく恋ひば妹が名人知らむかも かな読みうかねらふ|とみやまゆ...
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万葉集2347番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2347番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2347番について歌番号2347番原文海小船|泊瀬乃山尓|落雪之|消長戀師|君之音曽為流訓読海人小舟泊瀬の山に降る雪の日長く恋ひし君が音ぞする かな読みあまをぶね|はつせのや...
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万葉集2348番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2348番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2348番について歌番号2348番原文和射美能|嶺徃過而|零雪乃|猒毛無跡|白其兒尓訓読和射見の嶺行き過ぎて降る雪のいとひもなしと申せその子に かな読みわざみの|みねゆきすぎ...
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万葉集2349番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2349番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2349番について歌番号2349番原文吾屋戸尓|開有梅乎|月夜好美|夕々令見|君乎祚待也訓読我が宿に咲きたる梅を月夜よみ宵々見せむ君をこそ待て かな読みわがやどに|さきたるう...
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万葉集2350番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2350番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2350番について歌番号2350番原文足桧木乃|山下風波|雖不吹|君無夕者|豫寒毛訓読あしひきの山のあらしは吹かねども君なき宵はかねて寒しも かな読みあしひきの|やまのあらし...
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万葉集2307番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2307番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2307番について歌番号2307番原文於黄葉|置白露之|色葉二毛|不出跡念者|事之繁家口訓読黄葉に置く白露の色端にも出でじと思へば言の繁けく かな読みもみちばに|おくしらつゆ...
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万葉集2323番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2323番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2323番について歌番号2323番原文吾背子乎|且今々々|出見者|沫雪零有|庭毛保杼呂尓訓読我が背子を今か今かと出で見れば沫雪降れり庭もほどろに かな読みわがせこを|いまかい...
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万葉集2308番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2308番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2308番について歌番号2308番原文雨零者|瀧都山川|於石觸|君之摧|情者不持訓読雨降ればたぎつ山川岩に触れ君が砕かむ心は持たじ かな読みあめふれば|たぎつやまがは|いはに...
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万葉集2324番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2324番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2324番について歌番号2324番原文足引|山尓白者|我屋戸尓|昨日暮|零之雪疑意訓読あしひきの山に白きは我が宿に昨日の夕降りし雪かも かな読みあしひきの|やまにしろきは|わ...
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万葉集2309番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2309番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2309番について歌番号2309番原文祝部等之|齋經社之|黄葉毛|標縄越而|落云物乎訓読祝らが斎ふ社の黄葉も標縄越えて散るといふものを かな読みはふりらが|いはふやしろの|も...
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万葉集2325番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2325番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2325番について歌番号2325番原文誰苑之|梅花毛|久堅之|消月夜尓|幾許散来訓読誰が園の梅の花ぞもひさかたの清き月夜にここだ散りくる かな読みたがそのの|うめのはなぞも|...
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万葉集2310番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2310番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2310番について歌番号2310番原文蟋蟀之|吾床隔尓|鳴乍本名|起居管|君尓戀尓|宿不勝尓訓読こほろぎの我が床の辺に鳴きつつもとな起き居つつ君に恋ふるに寐ねかてなくに かな...
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万葉集2326番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2326番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2326番について歌番号2326番原文梅花|先開枝|手折而者|褁常名付而|与副手六香聞訓読梅の花まづ咲く枝を手折りてばつとと名付けてよそへてむかも かな読みうめのはな|まづさ...
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万葉集2311番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2311番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2311番について歌番号2311番原文皮為酢寸|穂庭開不出|戀乎吾為|玉蜻|直一目耳|視之人故尓訓読はだすすき穂には咲き出ぬ恋をぞ我がする玉かぎるただ一目のみ見し人ゆゑに か...
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万葉集2327番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2327番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2327番について歌番号2327番原文誰苑之|梅尓可有家武|幾許毛|開有可毛|見我欲左右手二訓読誰が園の梅にかありけむここだくも咲きてあるかも見が欲しまでに かな読みたがその...
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万葉集2312番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2312番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2312番について歌番号2312番原文我袖尓|雹手走|巻隠|不消有|妹為見訓読我が袖に霰た走る巻き隠し消たずてあらむ妹が見むため かな読みわがそでに|あられたばしる|まきかく...
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万葉集2328番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2328番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2328番について歌番号2328番原文来可視|人毛不有尓|吾家有|梅早花|落十方吉訓読来て見べき人もあらなくに我家なる梅の初花散りぬともよし かな読みきてみべき|ひともあらな...
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万葉集2313番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2313番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2313番について歌番号2313番原文足曳之|山鴨高|巻向之|木志乃子松二|三雪落来訓読あしひきの山かも高き巻向の崖の小松にみ雪降りくる かな読みあしひきの|やまかもたかき|...
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万葉集2329番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2329番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2329番について歌番号2329番原文雪寒三|咲者不開|梅花|縦比来者|然而毛有金訓読雪寒み咲きには咲かぬ梅の花よしこのころはかくてもあるがね かな読みゆきさむみ|さきにはさ...
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万葉集2314番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2314番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2314番について歌番号2314番原文巻向之|桧原毛未|雲居者|子松之末由|沫雪流訓読巻向の桧原もいまだ雲居ねば小松が末ゆ沫雪流る かな読みまきむくの|ひはらもいまだ|くもゐ...
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万葉集2330番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2330番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2330番について歌番号2330番原文為妹|末枝梅乎|手折登波|下枝之露尓|沾家類可聞訓読妹がためほつ枝の梅を手折るとは下枝の露に濡れにけるかも かな読みいもがため|ほつえの...
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万葉集2315番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2315番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2315番について歌番号2315番原文足引|山道不知|白|枝母等乎々尓|雪落者|訓読あしひきの山道も知らず白橿の枝もとををに雪の降れれば| かな読みあしひきの|やまぢもしらず...
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万葉集2331番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2331番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2331番について歌番号2331番原文八田乃野之|淺茅色付|有乳山|峯之沫雪|零良之訓読八田の野の浅茅色づく有乳山嶺の沫雪寒く降るらし かな読みやたののの|あさぢいろづく|あ...
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万葉集2316番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2316番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2316番について歌番号2316番原文奈良山乃|峯尚霧合|宇倍志社|前垣之下乃|雪者不消家礼訓読奈良山の嶺なほ霧らふうべしこそ籬が下の雪は消ずけれ かな読みならやまの|みねな...
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万葉集2332番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2332番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2332番について歌番号2332番原文左夜深者|出来牟月乎|高山之|峯白雲|将隠鴨訓読さ夜更けば出で来む月を高山の嶺の白雲隠すらむかも かな読みさよふけば|いでこむつきを|た...
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万葉集2317番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2317番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2317番について歌番号2317番原文殊落者|袖副沾而|可通|将落雪之|空尓消二管訓読こと降らば袖さへ濡れて通るべく降りなむ雪の空に消につつ かな読みことふらば|そでさへぬれ...
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万葉集2333番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2333番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2333番について歌番号2333番原文零雪|虚空可消|雖戀|相依無|月經在訓読降る雪の空に消ぬべく恋ふれども逢ふよしなしに月ぞ経にける かな読みふるゆきの|そらにけぬべく|こ...
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万葉集2318番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2318番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2318番について歌番号2318番原文夜乎寒三|朝戸乎開|出見者|庭毛薄太良尓|三雪落有|訓読夜を寒み朝戸を開き出で見れば庭もはだらにみ雪降りたり| かな読みよをさむみ|あさ...
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万葉集2334番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2334番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2334番について歌番号2334番原文雪|千零敷|戀為来|食永我|見偲訓読沫雪は千重に降りしけ恋ひしくの日長き我れは見つつ偲はむ かな読みあわゆきは|ちへにふりしけ|こひしく...
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万葉集2319番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2319番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2319番について歌番号2319番原文暮去者|衣袖寒之|高松之|山木毎|雪曽零有訓読夕されば衣手寒し高松の山の木ごとに雪ぞ降りたる かな読みゆふされば|ころもでさむし|たかま...
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万葉集2335番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2335番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2335番について歌番号2335番原文咲出照|梅之下枝|置露之|可消於妹|戀頃者訓読咲き出照る梅の下枝に置く露の消ぬべく妹に恋ふるこのころ かな読みさきでてる|うめのしづえに...
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万葉集2320番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2320番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2320番について歌番号2320番原文吾袖尓|零鶴雪毛|流去而|妹之手本|伊行觸訓読我が袖に降りつる雪も流れ行きて妹が手本にい行き触れぬか かな読みわがそでに|ふりつるゆきも...
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万葉集2336番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2336番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2336番について歌番号2336番原文甚毛|夜深勿行|道邊之|湯小竹之於尓|霜降夜焉訓読はなはだも夜更けてな行き道の辺の斎笹の上に霜の降る夜を かな読みはなはだも|よふけてな...
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万葉集2321番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2321番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2321番について歌番号2321番原文沫雪者|今日者莫零|白妙之|袖纒将干|人毛不有訓読沫雪は今日はな降りそ白栲の袖まき干さむ人もあらなくに かな読みあわゆきは|けふはなふり...
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万葉集2337番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2337番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2337番について歌番号2337番原文小竹葉尓|薄太礼零覆|消名羽鴨|将忘云者|益所念訓読笹の葉にはだれ降り覆ひ消なばかも忘れむと言へばまして思ほゆ かな読みささのはに|はだ...
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万葉集2306番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2306番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2306番について歌番号2306番原文四具礼零|暁月夜|紐不解|戀君跡|居益物訓読しぐれ降る暁月夜紐解かず恋ふらむ君と居らましものを かな読みしぐれふる|あかときづくよ|ひも...
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万葉集2322番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2322番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2322番について歌番号2322番原文甚多毛|不零雪故|言多毛|天三空者|相管訓読はなはだも降らぬ雪ゆゑこちたくも天つみ空は雲らひにつつ かな読みはなはだも|ふらぬゆきゆゑ|...
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万葉集2338番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2338番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2338番について歌番号2338番原文霰落|板風吹|寒夜也|旗野尓今夜|吾獨寐牟訓読霰降りいたく風吹き寒き夜や旗野に今夜我が独り寝む かな読みあられふり|いたくかぜふき|さむ...
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万葉集2275番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2275番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2275番について歌番号2275番原文言出而|云忌染|朝皃乃|穂庭開不出|戀為鴨訓読言に出でて云はばゆゆしみ朝顔の穂には咲き出ぬ恋もするかも かな読みことにいでて|いはばゆゆ...
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万葉集2291番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2291番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2291番について歌番号2291番原文朝開|夕者消流|鴨頭草|可消戀毛|吾者為鴨訓読朝咲き夕は消ぬる月草の消ぬべき恋も我れはするかも かな読みあしたさき|ゆふへはけぬる|つき...
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万葉集2276番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2276番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2276番について歌番号2276番原文鴈鳴之|始音聞而|開出有|屋前之秋芽子|見来吾世古訓読雁がねの初声聞きて咲き出たる宿の秋萩見に来我が背子 かな読みかりがねの|はつこゑき...
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万葉集2292番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2292番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2292番について歌番号2292番原文蜒野之|尾花苅副|秋芽子之|花乎葺核|君之借廬訓読秋津野の尾花刈り添へ秋萩の花を葺かさね君が仮廬に かな読みあきづのの|をばなかりそへ|...
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万葉集2277番の作者・分類|訓読・読み|意味・訳|原文

万葉集2277番の原文、読み、作者、左注、事項をまとめます。万葉集2277番について歌番号2277番原文左小鹿之|入野乃為酢寸|初尾花|何時|妹之枕訓読さを鹿の入野のすすき初尾花いづれの時か妹が手まかむ かな読みさをしかの|いりののすすき|...