万葉集の第20巻を一覧にまとめました。
万葉集の第20巻一覧
| 4293 | あしひきの山行きしかば山人の我れに得しめし山づとぞこれ | 
| 4294 | あしひきの山に行きけむ山人の心も知らず山人や誰れ | 
| 4295 | 高円の尾花吹き越す秋風に紐解き開けな直ならずとも | 
| 4296 | 天雲に雁ぞ鳴くなる高円の萩の下葉はもみちあへむかも | 
| 4297 | をみなへし秋萩しのぎさを鹿の露別け鳴かむ高圓の野ぞ | 
| 4298 | 霜の上に霰た走りいやましに我れは参ゐ来む年の緒長く古今未詳 | 
| 4299 | 年月は新た新たに相見れど我が思ふ君は飽き足らぬかも古今未詳 | 
| 4300 | 霞立つ春の初めを今日のごと見むと思へば楽しとぞ思ふ | 
| 4301 | 印南野の赤ら柏は時はあれど君を我が思ふ時はさねなし | 
| 4302 | 山吹は撫でつつ生ほさむありつつも君来ましつつかざしたりけり | 
| 4303 | 我が背子が宿の山吹咲きてあらばやまず通はむいや年の端に | 
| 4304 | 山吹の花の盛りにかくのごと君を見まくは千年にもがも | 
| 4305 | 木の暗の茂き峰の上を霍公鳥鳴きて越ゆなり今し来らしも | 
| 4306 | 初秋風涼しき夕解かむとぞ紐は結びし妹に逢はむため | 
| 4307 | 秋と言へば心ぞ痛きうたて異に花になそへて見まく欲りかも | 
| 4308 | 初尾花花に見むとし天の川へなりにけらし年の緒長く | 
| 4309 | 秋風に靡く川辺のにこ草のにこよかにしも思ほゆるかも | 
| 4310 | 秋されば霧立ちわたる天の川石並置かば継ぎて見むかも | 
| 4311 | 秋風に今か今かと紐解きてうら待ち居るに月かたぶきぬ | 
| 4312 | 秋草に置く白露の飽かずのみ相見るものを月をし待たむ | 
| 4313 | 青波に袖さへ濡れて漕ぐ舟のかし振るほとにさ夜更けなむか | 
| 4314 | 八千種に草木を植ゑて時ごとに咲かむ花をし見つつ偲はな | 
| 4315 | 宮人の袖付け衣秋萩ににほひよろしき高圓の宮 | 
| 4316 | 高圓の宮の裾廻の野づかさに今咲けるらむをみなへしはも | 
| 4317 | 秋野には今こそ行かめもののふの男女の花にほひ見に | 
| 4318 | 秋の野に露負へる萩を手折らずてあたら盛りを過ぐしてむとか | 
| 4319 | 高圓の秋野の上の朝霧に妻呼ぶ壮鹿出で立つらむか | 
| 4320 | 大夫の呼び立てしかばさを鹿の胸別け行かむ秋野萩原 | 
| 4321 | 畏きや命被り明日ゆりや草がむた寝む妹なしにして | 
| 4322 | 我が妻はいたく恋ひらし飲む水に影さへ見えてよに忘られず | 
| 4323 | 時々の花は咲けども何すれぞ母とふ花の咲き出来ずけむ | 
| 4324 | 遠江志留波の礒と尓閇の浦と合ひてしあらば言も通はむ | 
| 4325 | 父母も花にもがもや草枕旅は行くとも捧ごて行かむ | 
| 4326 | 父母が殿の後方のももよ草百代いでませ我が来るまで | 
| 4327 | 我が妻も絵に描き取らむ暇もが旅行く我れは見つつ偲はむ | 
| 4328 | 大君の命畏み磯に触り海原渡る父母を置きて | 
| 4329 | 八十国は難波に集ひ船かざり我がせむ日ろを見も人もがも | 
| 4330 | 難波津に装ひ装ひて今日の日や出でて罷らむ見る母なしに | 
| 4331 | 大君の遠の朝廷としらぬひ筑紫の国は敵守るおさへの城ぞと聞こし食す四方の国には人さはに満ちてはあれど鶏が鳴く東男は出で向ひかへり見せずて勇みたる猛き軍士とねぎたまひ任けのまにまにたらちねの母が目離れて若草の妻をも巻かずあらたまの月日数みつつ葦が散る難波の御津に大船にま櫂しじ貫き朝なぎに水手ととのへ夕潮に楫引き折り率ひて漕ぎ行く君は波の間をい行きさぐくみま幸くも早く至りて大君の命のまにま大夫の心を持ちてあり廻り事し終らばつつまはず帰り来ませと斎瓮を床辺に据ゑて白栲の袖折り返しぬばたまの黒髪敷きて長き日を待ちかも恋ひむ愛しき妻らは | 
| 4332 | 大夫の靫取り負ひて出でて行けば別れを惜しみ嘆きけむ妻 | 
| 4333 | 鶏が鳴く東壮士の妻別れ悲しくありけむ年の緒長み | 
| 4334 | 海原を遠く渡りて年経とも子らが結べる紐解くなゆめ | 
| 4335 | 今替る新防人が船出する海原の上に波なさきそね | 
| 4336 | 防人の堀江漕ぎ出る伊豆手船楫取る間なく恋は繁けむ | 
| 4337 | 水鳥の立ちの急ぎに父母に物言はず来にて今ぞ悔しき | 
| 4338 | 畳薦牟良自が礒の離磯の母を離れて行くが悲しさ | 
| 4339 | 国廻るあとりかまけり行き廻り帰り来までに斎ひて待たね | 
| 4340 | 父母え斎ひて待たね筑紫なる水漬く白玉取りて来までに | 
| 4341 | 橘の美袁利の里に父を置きて道の長道は行きかてのかも | 
| 4342 | 真木柱ほめて造れる殿のごといませ母刀自面変はりせず | 
| 4343 | 我ろ旅は旅と思ほど家にして子持ち痩すらむ我が妻愛しも | 
| 4344 | 忘らむて野行き山行き我れ来れど我が父母は忘れせのかも | 
| 4345 | 我妹子と二人我が見しうち寄する駿河の嶺らは恋しくめあるか | 
| 4346 | 父母が頭掻き撫で幸くあれて言ひし言葉ぜ忘れかねつる | 
| 4347 | 家にして恋ひつつあらずは汝が佩ける大刀になりても斎ひてしかも | 
| 4348 | たらちねの母を別れてまこと我れ旅の仮廬に安く寝むかも | 
| 4349 | 百隈の道は来にしをまたさらに八十島過ぎて別れか行かむ | 
| 4350 | 庭中の阿須波の神に小柴さし我れは斎はむ帰り来までに | 
| 4351 | 旅衣八重着重ねて寐のれどもなほ肌寒し妹にしあらねば | 
| 4352 | 道の辺の茨のうれに延ほ豆のからまる君をはかれか行かむ | 
| 4353 | 家風は日に日に吹けど我妹子が家言持ちて来る人もなし | 
| 4354 | たちこもの立ちの騒きに相見てし妹が心は忘れせぬかも | 
| 4355 | よそにのみ見てや渡らも難波潟雲居に見ゆる島ならなくに | 
| 4356 | 我が母の袖もち撫でて我がからに泣きし心を忘らえのかも | 
| 4357 | 葦垣の隈処に立ちて我妹子が袖もしほほに泣きしぞ思はゆ | 
| 4358 | 大君の命畏み出で来れば我の取り付きて言ひし子なはも | 
| 4359 | 筑紫辺に舳向かる船のいつしかも仕へまつりて国に舳向かも | 
| 4360 | 皇祖の遠き御代にも押し照る難波の国に天の下知らしめしきと今の緒に絶えず言ひつつかけまくもあやに畏し神ながら我ご大君のうち靡く春の初めは八千種に花咲きにほひ山見れば見の羨しく川見れば見のさやけくものごとに栄ゆる時と見したまひ明らめたまひ敷きませる難波の宮は聞こし食す四方の国より奉る御調の船は堀江より水脈引きしつつ朝なぎに楫引き上り夕潮に棹さし下りあぢ群の騒き競ひて浜に出でて海原見れば白波の八重をるが上に海人小船はららに浮きて大御食に仕へまつるとをちこちに漁り釣りけりそきだくもおぎろなきかもこきばくもゆたけきかもここ見ればうべし神代ゆ始めけらしも | 
| 4361 | 桜花今盛りなり難波の海押し照る宮に聞こしめすなへ | 
| 4362 | 海原のゆたけき見つつ葦が散る難波に年は経ぬべく思ほゆ | 
| 4363 | 難波津に御船下ろ据ゑ八十楫貫き今は漕ぎぬと妹に告げこそ | 
| 4364 | 防人に立たむ騒きに家の妹がなるべきことを言はず来ぬかも | 
| 4365 | 押し照るや難波の津ゆり船装ひ我れは漕ぎぬと妹に告ぎこそ | 
| 4366 | 常陸指し行かむ雁もが我が恋を記して付けて妹に知らせむ | 
| 4367 | 我が面の忘れもしだは筑波嶺を振り放け見つつ妹は偲はね | 
| 4368 | 久慈川は幸くあり待て潮船にま楫しじ貫き我は帰り来む | 
| 4369 | 筑波嶺のさ百合の花の夜床にも愛しけ妹ぞ昼も愛しけ | 
| 4370 | 霰降り鹿島の神を祈りつつ皇御軍に我れは来にしを | 
| 4371 | 橘の下吹く風のかぐはしき筑波の山を恋ひずあらめかも | 
| 4372 | 足柄のみ坂給はり返り見ず我れは越え行く荒し夫も立しやはばかる不破の関越えて我は行く馬の爪筑紫の崎に留まり居て我れは斎はむ諸々は幸くと申す帰り来までに | 
| 4373 | 今日よりは返り見なくて大君の醜の御楯と出で立つ我れは | 
| 4374 | 天地の神を祈りて猟矢貫き筑紫の島を指して行く我れは | 
| 4375 | 松の木の並みたる見れば家人の我れを見送ると立たりしもころ | 
| 4376 | 旅行きに行くと知らずて母父に言申さずて今ぞ悔しけ | 
| 4377 | 母刀自も玉にもがもや戴きてみづらの中に合へ巻かまくも | 
| 4378 | 月日やは過ぐは行けども母父が玉の姿は忘れせなふも | 
| 4379 | 白波の寄そる浜辺に別れなばいともすべなみ八度袖振る | 
| 4380 | 難波津を漕ぎ出て見れば神さぶる生駒高嶺に雲ぞたなびく | 
| 4381 | 国々の防人集ひ船乗りて別るを見ればいともすべなし | 
| 4382 | ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひ我がする時に防人にさす | 
| 4383 | 津の国の海の渚に船装ひ立し出も時に母が目もがも | 
| 4384 | 暁のかはたれ時に島蔭を漕ぎ去し船のたづき知らずも | 
| 4385 | 行こ先に波なとゑらひ後方には子をと妻をと置きてとも来ぬ | 
| 4386 | 我が門の五本柳いつもいつも母が恋すす業りましつしも | 
| 4387 | 千葉の野の児手柏のほほまれどあやに愛しみ置きて誰が来ぬ | 
| 4388 | 旅とへど真旅になりぬ家の妹が着せし衣に垢付きにかり | 
| 4389 | 潮舟の舳越そ白波にはしくも負ふせたまほか思はへなくに | 
| 4390 | 群玉の枢にくぎさし堅めとし妹が心は動くなめかも | 
| 4391 | 国々の社の神に幣奉り贖乞ひすなむ妹が愛しさ | 
| 4392 | 天地のいづれの神を祈らばか愛し母にまた言とはむ | 
| 4393 | 大君の命にされば父母を斎瓮と置きて参ゐ出来にしを | 
| 4394 | 大君の命畏み弓の共さ寝かわたらむ長けこの夜を | 
| 4395 | 龍田山見つつ越え来し桜花散りか過ぎなむ我が帰るとに | 
| 4396 | 堀江より朝潮満ちに寄る木屑貝にありせばつとにせましを | 
| 4397 | 見わたせば向つ峰の上の花にほひ照りて立てるは愛しき誰が妻 | 
| 4398 | 大君の命畏み妻別れ悲しくはあれど大夫の心振り起し取り装ひ門出をすればたらちねの母掻き撫で若草の妻は取り付き平らけく我れは斎はむま幸くて早帰り来と真袖もち涙を拭ひむせひつつ言問ひすれば群鳥の出で立ちかてにとどこほりかへり見しつついや遠に国を来離れいや高に山を越え過ぎ葦が散る難波に来居て夕潮に船を浮けすゑ朝なぎに舳向け漕がむとさもらふと我が居る時に春霞島廻に立ちて鶴が音の悲しく鳴けばはろはろに家を思ひ出負ひ征矢のそよと鳴るまで嘆きつるかも | 
| 4399 | 海原に霞たなびき鶴が音の悲しき宵は国辺し思ほゆ | 
| 4400 | 家思ふと寐を寝ず居れば鶴が鳴く葦辺も見えず春の霞に | 
| 4401 | 唐衣裾に取り付き泣く子らを置きてぞ来のや母なしにして | 
| 4402 | ちはやぶる神の御坂に幣奉り斎ふ命は母父がため | 
| 4403 | 大君の命畏み青雲のとのびく山を越よて来ぬかむ | 
| 4404 | 難波道を行きて来までと我妹子が付けし紐が緒絶えにけるかも | 
| 4405 | 我が妹子が偲ひにせよと付けし紐糸になるとも我は解かじとよ | 
| 4406 | 我が家ろに行かも人もが草枕旅は苦しと告げ遣らまくも | 
| 4407 | ひな曇り碓氷の坂を越えしだに妹が恋しく忘らえぬかも | 
| 4408 | 大君の任けのまにまに島守に我が立ち来ればははそ葉の母の命はみ裳の裾摘み上げ掻き撫でちちの実の父の命は栲づのの白髭の上ゆ涙垂り嘆きのたばく鹿子じものただ独りして朝戸出の愛しき我が子あらたまの年の緒長く相見ずは恋しくあるべし今日だにも言問ひせむと惜しみつつ悲しびませば若草の妻も子どももをちこちにさはに囲み居春鳥の声のさまよひ白栲の袖泣き濡らしたづさはり別れかてにと引き留め慕ひしものを大君の命畏み玉桙の道に出で立ち岡の崎い廻むるごとに万たびかへり見しつつはろはろに別れし来れば思ふそら安くもあらず恋ふるそら苦しきものをうつせみの世の人なればたまきはる命も知らず海原の畏き道を島伝ひい漕ぎ渡りてあり廻り我が来るまでに平けく親はいまさねつつみなく妻は待たせと住吉の我が統め神に幣奉り祈り申して難波津に船を浮け据ゑ八十楫貫き水手ととのへて朝開き我は漕ぎ出ぬと家に告げこそ | 
| 4409 | 家人の斎へにかあらむ平けく船出はしぬと親に申さね | 
| 4410 | み空行く雲も使と人は言へど家づと遣らむたづき知らずも | 
| 4411 | 家づとに貝ぞ拾へる浜波はいやしくしくに高く寄すれど | 
| 4412 | 島蔭に我が船泊てて告げ遣らむ使を無みや恋ひつつ行かむ | 
| 4413 | 枕太刀腰に取り佩きま愛しき背ろが罷き来む月の知らなく | 
| 4414 | 大君の命畏み愛しけ真子が手離り島伝ひ行く | 
| 4415 | 白玉を手に取り持して見るのすも家なる妹をまた見てももや | 
| 4416 | 草枕旅行く背なが丸寝せば家なる我れは紐解かず寝む | 
| 4417 | 赤駒を山野にはがし捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ | 
| 4418 | 我が門の片山椿まこと汝れ我が手触れなな土に落ちもかも | 
| 4419 | 家ろには葦火焚けども住みよけを筑紫に至りて恋しけ思はも | 
| 4420 | 草枕旅の丸寝の紐絶えば我が手と付けろこれの針持し | 
| 4421 | 我が行きの息づくしかば足柄の峰延ほ雲を見とと偲はね | 
| 4422 | 我が背なを筑紫へ遣りて愛しみ帯は解かななあやにかも寝も | 
| 4423 | 足柄の御坂に立して袖振らば家なる妹はさやに見もかも | 
| 4424 | 色深く背なが衣は染めましをみ坂給らばまさやかに見む | 
| 4425 | 防人に行くは誰が背と問ふ人を見るが羨しさ物思ひもせず | 
| 4426 | 天地の神に幣置き斎ひつついませ我が背な我れをし思はば | 
| 4427 | 家の妹ろ我を偲ふらし真結ひに結ひし紐の解くらく思へば | 
| 4428 | 我が背なを筑紫は遣りて愛しみえひは解かななあやにかも寝む | 
| 4429 | 馬屋なる縄立つ駒の後るがへ妹が言ひしを置きて悲しも | 
| 4430 | 荒し男のいをさ手挟み向ひ立ちかなるましづみ出でてと我が来る | 
| 4431 | 笹が葉のさやぐ霜夜に七重着る衣に増せる子ろが肌はも | 
| 4432 | 障へなへぬ命にあれば愛し妹が手枕離れあやに悲しも | 
| 4433 | 朝な朝な上がるひばりになりてしか都に行きて早帰り来む | 
| 4434 | ひばり上がる春へとさやになりぬれば都も見えず霞たなびく | 
| 4435 | ふふめりし花の初めに来し我れや散りなむ後に都へ行かむ | 
| 4436 | 闇の夜の行く先知らず行く我れをいつ来まさむと問ひし子らはも | 
| 4437 | 霍公鳥なほも鳴かなむ本つ人かけつつもとな我を音し泣くも | 
| 4438 | 霍公鳥ここに近くを来鳴きてよ過ぎなむ後に験あらめやも | 
| 4439 | 松が枝の土に着くまで降る雪を見ずてや妹が隠り居るらむ | 
| 4440 | 足柄の八重山越えていましなば誰れをか君と見つつ偲はむ | 
| 4441 | 立ちしなふ君が姿を忘れずは世の限りにや恋ひわたりなむ | 
| 4442 | 我が背子が宿のなでしこ日並べて雨は降れども色も変らず | 
| 4443 | ひさかたの雨は降りしくなでしこがいや初花に恋しき我が背 | 
| 4444 | 我が背子が宿なる萩の花咲かむ秋の夕は我れを偲はせ | 
| 4445 | 鴬の声は過ぎぬと思へどもしみにし心なほ恋ひにけり | 
| 4446 | 我が宿に咲けるなでしこ賄はせむゆめ花散るないやをちに咲け | 
| 4447 | 賄しつつ君が生ほせるなでしこが花のみ問はむ君ならなくに | 
| 4448 | あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にをいませ我が背子見つつ偲はむ | 
| 4449 | なでしこが花取り持ちてうつらうつら見まくの欲しき君にもあるかも | 
| 4450 | 我が背子が宿のなでしこ散らめやもいや初花に咲きは増すとも | 
| 4451 | うるはしみ我が思ふ君はなでしこが花になそへて見れど飽かぬかも | 
| 4452 | 娘子らが玉裳裾引くこの庭に秋風吹きて花は散りつつ | 
| 4453 | 秋風の吹き扱き敷ける花の庭清き月夜に見れど飽かぬかも | 
| 4454 | 高山の巌に生ふる菅の根のねもころごろに降り置く白雪 | 
| 4455 | あかねさす昼は田賜びてぬばたまの夜のいとまに摘める芹これ | 
| 4456 | 大夫と思へるものを太刀佩きて可尓波の田居に芹ぞ摘みける | 
| 4457 | 住吉の浜松が根の下延へて我が見る小野の草な刈りそね | 
| 4458 | にほ鳥の息長川は絶えぬとも君に語らむ言尽きめやも古新未詳 | 
| 4459 | 葦刈りに堀江漕ぐなる楫の音は大宮人の皆聞くまでに | 
| 4460 | 堀江漕ぐ伊豆手の舟の楫つくめ音しば立ちぬ水脈早みかも | 
| 4461 | 堀江より水脈さかのぼる楫の音の間なくぞ奈良は恋しかりける | 
| 4462 | 舟競ふ堀江の川の水際に来居つつ鳴くは都鳥かも | 
| 4463 | 霍公鳥まづ鳴く朝明いかにせば我が門過ぎじ語り継ぐまで | 
| 4464 | 霍公鳥懸けつつ君が松蔭に紐解き放くる月近づきぬ | 
| 4465 | 久方の天の門開き高千穂の岳に天降りし皇祖の神の御代よりはじ弓を手握り持たし真鹿子矢を手挟み添へて大久米のますらたけをを先に立て靫取り負ほせ山川を岩根さくみて踏み通り国求ぎしつつちはやぶる神を言向けまつろはぬ人をも和し掃き清め仕へまつりて蜻蛉島大和の国の橿原の畝傍の宮に宮柱太知り立てて天の下知らしめしける天皇の天の日継と継ぎてくる君の御代御代隠さはぬ明き心をすめらへに極め尽して仕へくる祖の官と言立てて授けたまへる子孫のいや継ぎ継ぎに見る人の語り継ぎてて聞く人の鏡にせむを惜しき清きその名ぞおぼろかに心思ひて空言も祖の名絶つな大伴の氏と名に負へる大夫の伴 | 
| 4466 | 磯城島の大和の国に明らけき名に負ふ伴の男心つとめよ | 
| 4467 | 剣太刀いよよ磨ぐべし古ゆさやけく負ひて来にしその名ぞ | 
| 4468 | うつせみは数なき身なり山川のさやけき見つつ道を尋ねな | 
| 4469 | 渡る日の影に競ひて尋ねてな清きその道またもあはむため | 
| 4470 | 水泡なす仮れる身ぞとは知れれどもなほし願ひつ千年の命を | 
| 4471 | 消残りの雪にあへ照るあしひきの山橘をつとに摘み来な | 
| 4472 | 大君の命畏み於保の浦をそがひに見つつ都へ上る | 
| 4473 | うちひさす都の人に告げまくは見し日のごとくありと告げこそ | 
| 4474 | 群鳥の朝立ち去にし君が上はさやかに聞きつ思ひしごとく一云思ひしものを | 
| 4475 | 初雪は千重に降りしけ恋ひしくの多かる我れは見つつ偲はむ | 
| 4476 | 奥山のしきみが花の名のごとやしくしく君に恋ひわたりなむ | 
| 4477 | 夕霧に千鳥の鳴きし佐保路をば荒しやしてむ見るよしをなみ | 
| 4478 | 佐保川に凍りわたれる薄ら氷の薄き心を我が思はなくに | 
| 4479 | 朝夕に音のみし泣けば焼き太刀の利心も我れは思ひかねつも | 
| 4480 | 畏きや天の御門を懸けつれば音のみし泣かゆ朝夕にして作者未詳 | 
| 4481 | あしひきの八つ峰の椿つらつらに見とも飽かめや植ゑてける君 | 
| 4482 | 堀江越え遠き里まで送り来る君が心は忘らゆましじ | 
| 4483 | 移り行く時見るごとに心痛く昔の人し思ほゆるかも | 
| 4484 | 咲く花は移ろふ時ありあしひきの山菅の根し長くはありけり | 
| 4485 | 時の花いやめづらしもかくしこそ見し明らめめ秋立つごとに | 
| 4486 | 天地を照らす日月の極みなくあるべきものを何をか思はむ | 
| 4487 | いざ子どもたはわざなせそ天地の堅めし国ぞ大和島根は | 
| 4488 | み雪降る冬は今日のみ鴬の鳴かむ春へは明日にしあるらし | 
| 4489 | うち靡く春を近みかぬばたまの今夜の月夜霞みたるらむ | 
| 4490 | あらたまの年行き返り春立たばまづ我が宿に鴬は鳴け | 
| 4491 | 大き海の水底深く思ひつつ裳引き平しし菅原の里 | 
| 4492 | 月数めばいまだ冬なりしかすがに霞たなびく春立ちぬとか | 
| 4493 | 初春の初子の今日の玉箒手に取るからに揺らく玉の緒 | 
| 4494 | 水鳥の鴨の羽の色の青馬を今日見る人は限りなしといふ | 
| 4495 | うち靡く春ともしるく鴬は植木の木間を鳴き渡らなむ | 
| 4496 | 恨めしく君はもあるか宿の梅の散り過ぐるまで見しめずありける | 
| 4497 | 見むと言はば否と言はめや梅の花散り過ぐるまで君が来まさぬ | 
| 4498 | はしきよし今日の主人は礒松の常にいまさね今も見るごと | 
| 4499 | 我が背子しかくし聞こさば天地の神を祈ひ祷み長くとぞ思ふ | 
| 4500 | 梅の花香をかぐはしみ遠けども心もしのに君をしぞ思ふ | 
| 4501 | 八千種の花は移ろふ常盤なる松のさ枝を我れは結ばな | 
| 4502 | 梅の花咲き散る春の長き日を見れども飽かぬ礒にもあるかも | 
| 4503 | 君が家の池の白波礒に寄せしばしば見とも飽かむ君かも | 
| 4504 | うるはしと我が思ふ君はいや日異に来ませ我が背子絶ゆる日なしに | 
| 4505 | 礒の裏に常呼び来住む鴛鴦の惜しき我が身は君がまにまに | 
| 4506 | 高圓の野の上の宮は荒れにけり立たしし君の御代遠そけば | 
| 4507 | 高圓の峰の上の宮は荒れぬとも立たしし君の御名忘れめや | 
| 4508 | 高圓の野辺延ふ葛の末つひに千代に忘れむ我が大君かも | 
| 4509 | 延ふ葛の絶えず偲はむ大君の見しし野辺には標結ふべしも | 
| 4510 | 大君の継ぎて見すらし高圓の野辺見るごとに音のみし泣かゆ | 
| 4511 | 鴛鴦の住む君がこの山斎今日見れば馬酔木の花も咲きにけるかも | 
| 4512 | 池水に影さへ見えて咲きにほふ馬酔木の花を袖に扱入れな | 
| 4513 | 礒影の見ゆる池水照るまでに咲ける馬酔木の散らまく惜しも | 
| 4514 | 青海原風波靡き行くさ来さつつむことなく船は速けむ | 
| 4515 | 秋風の末吹き靡く萩の花ともにかざさず相か別れむ | 
| 4516 | 新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事 | 
