万葉集の第5巻を一覧にまとめました。
万葉集の第5巻一覧
| 793 | 世間は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり |
| 794 | 大君の遠の朝廷としらぬひ筑紫の国に泣く子なす慕ひ来まして息だにもいまだ休めず年月もいまだあらねば心ゆも思はぬ間にうち靡き臥やしぬれ言はむすべ為むすべ知らに岩木をも問ひ放け知らず家ならば形はあらむを恨めしき妹の命の我れをばもいかにせよとかにほ鳥のふたり並び居語らひし心背きて家離りいます |
| 795 | 家に行きていかにか我がせむ枕付く妻屋寂しく思ほゆべしも |
| 796 | はしきよしかくのみからに慕ひ来し妹が心のすべもすべなさ |
| 797 | 悔しかもかく知らませばあをによし国内ことごと見せましものを |
| 798 | 妹が見し楝の花は散りぬべし我が泣く涙いまだ干なくに |
| 799 | 大野山霧立ちわたる我が嘆くおきその風に霧立ちわたる |
| 800 | 父母を見れば貴し妻子見ればめぐし愛し世間はかくぞことわりもち鳥のかからはしもよゆくへ知らねば穿沓を脱き棄るごとく踏み脱きて行くちふ人は石木よりなり出し人か汝が名告らさね天へ行かば汝がまにまに地ならば大君いますこの照らす日月の下は天雲の向伏す極みたにぐくのさ渡る極み聞こし食す国のまほらぞかにかくに欲しきまにまにしかにはあらじか |
| 801 | ひさかたの天道は遠しなほなほに家に帰りて業を為まさに |
| 802 | 瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆいづくより来りしものぞまなかひにもとなかかりて安寐し寝さぬ |
| 803 | 銀も金も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも |
| 804 | 世間のすべなきものは年月は流るるごとしとり続き追ひ来るものは百種に迫め寄り来る娘子らが娘子さびすと唐玉を手本に巻かし白妙の袖振り交はし紅の赤裳裾引きよち子らと手携はりて遊びけむ時の盛りを留みかね過ぐしやりつれ蜷の腸か黒き髪にいつの間か霜の降りけむ紅の丹のほなす面の上にいづくゆか皺が来りし常なりし笑まひ眉引き咲く花の移ろひにけり世間はかくのみならしますらをの男さびすと剣太刀腰に取り佩きさつ弓を手握り持ちて赤駒に倭文鞍うち置き這ひ乗りて遊び歩きし世間や常にありける娘子らがさ寝す板戸を押し開きい辿り寄りて真玉手の玉手さし交へさ寝し夜のいくだもあらねば手束杖腰にたがねてか行けば人に厭はえかく行けば人に憎まえ老よし男はかくのみならしたまきはる命惜しけど為むすべもなし |
| 805 | 常磐なすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも |
| 806 | 龍の馬も今も得てしかあをによし奈良の都に行きて来むため |
| 807 | うつつには逢ふよしもなしぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ |
| 808 | 龍の馬を我れは求めむあをによし奈良の都に来む人のたに |
| 809 | 直に逢はずあらくも多く敷栲の枕去らずて夢にし見えむ |
| 810 | いかにあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上我が枕かむ |
| 811 | 言とはぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし |
| 812 | 言とはぬ木にもありとも我が背子が手馴れの御琴地に置かめやも |
| 813 | かけまくはあやに畏し足日女神の命韓国を向け平らげて御心を鎮めたまふとい取らして斎ひたまひし真玉なす二つの石を世の人に示したまひて万代に言ひ継ぐかねと海の底沖つ深江の海上の子負の原に御手づから置かしたまひて神ながら神さびいます奇し御魂今のをつづに貴きろかむ |
| 814 | 天地のともに久しく言ひ継げとこの奇し御魂敷かしけらしも |
| 815 | 正月立ち春の来らばかくしこそ梅を招きつつ楽しき終へめ大貳紀卿 |
| 816 | 梅の花今咲けるごと散り過ぎず我が家の園にありこせぬかも少貳小野大夫 |
| 817 | 梅の花咲きたる園の青柳は蘰にすべくなりにけらずや少貳粟田大夫 |
| 818 | 春さればまづ咲くやどの梅の花独り見つつや春日暮らさむ筑前守山上大夫 |
| 819 | 世の中は恋繁しゑやかくしあらば梅の花にもならましものを豊後守大伴大夫 |
| 820 | 梅の花今盛りなり思ふどちかざしにしてな今盛りなり筑後守葛井大夫 |
| 821 | 青柳梅との花を折りかざし飲みての後は散りぬともよし笠沙弥 |
| 822 | 我が園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも主人 |
| 823 | 梅の花散らくはいづくしかすがにこの城の山に雪は降りつつ大監伴氏百代 |
| 824 | 梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林に鴬鳴くも小監阿氏奥嶋 |
| 825 | 梅の花咲きたる園の青柳を蘰にしつつ遊び暮らさな小監土氏百村 |
| 826 | うち靡く春の柳と我がやどの梅の花とをいかにか分かむ大典史氏大原 |
| 827 | 春されば木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に小典山氏若麻呂 |
| 828 | 人ごとに折りかざしつつ遊べどもいやめづらしき梅の花かも大判事<丹>氏麻呂 |
| 829 | 梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや藥師張氏福子 |
| 830 | 万代に年は来経とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし筑前介佐氏子首 |
| 831 | 春なればうべも咲きたる梅の花君を思ふと夜寐も寝なくに壹岐守板氏安麻呂 |
| 832 | 梅の花折りてかざせる諸人は今日の間は楽しくあるべし神司荒氏稲布 |
| 833 | 年のはに春の来らばかくしこそ梅をかざして楽しく飲まめ大令史野氏宿奈麻呂 |
| 834 | 梅の花今盛りなり百鳥の声の恋しき春来るらし小令史田氏肥人 |
| 835 | 春さらば逢はむと思ひし梅の花今日の遊びに相見つるかも藥師高氏義通 |
| 836 | 梅の花手折りかざして遊べども飽き足らぬ日は今日にしありけり陰陽師礒氏法麻呂 |
| 837 | 春の野に鳴くや鴬なつけむと我が家の園に梅が花咲くt師志氏大道 |
| 838 | 梅の花散り乱ひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて大隅目榎氏鉢麻呂 |
| 839 | 春の野に霧立ちわたり降る雪と人の見るまで梅の花散る筑前目田氏真上 |
| 840 | 春柳かづらに折りし梅の花誰れか浮かべし酒坏の上に壹岐目村氏彼方 |
| 841 | 鴬の音聞くなへに梅の花我家の園に咲きて散る見ゆ對馬目高氏老 |
| 842 | 我がやどの梅の下枝に遊びつつ鴬鳴くも散らまく惜しみ薩摩目高氏海人 |
| 843 | 梅の花折りかざしつつ諸人の遊ぶを見れば都しぞ思ふ土師氏御<道> |
| 844 | 妹が家に雪かも降ると見るまでにここだもまがふ梅の花かも小野氏國堅 |
| 845 | 鴬の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため筑前拯門氏石足 |
| 846 | 霞立つ長き春日をかざせれどいやなつかしき梅の花かも小野氏淡理 |
| 847 | 我が盛りいたくくたちぬ雲に飛ぶ薬食むともまた変若めやも |
| 848 | 雲に飛ぶ薬食むよは都見ばいやしき我が身また変若ぬべし |
| 849 | 残りたる雪に交れる梅の花早くな散りそ雪は消ぬとも |
| 850 | 雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも |
| 851 | 我がやどに盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも |
| 852 | 梅の花夢に語らくみやびたる花と我れ思ふ酒に浮かべこそ一云いたづらに我れを散らすな酒に浮べこそ |
| 853 | あさりする海人の子どもと人は言へど見るに知らえぬ貴人の子と |
| 854 | 玉島のこの川上に家はあれど君をやさしみあらはさずありき |
| 855 | 松浦川川の瀬光り鮎釣ると立たせる妹が裳の裾濡れぬ |
| 856 | 松浦なる玉島川に鮎釣ると立たせる子らが家道知らずも |
| 857 | 遠つ人松浦の川に若鮎釣る妹が手本を我れこそ卷かめ |
| 858 | 若鮎釣る松浦の川の川なみの並にし思はば我れ恋ひめやも |
| 859 | 春されば我家の里の川門には鮎子さ走る君待ちがてに |
| 860 | 松浦川七瀬の淀は淀むとも我れは淀まず君をし待たむ |
| 861 | 松浦川川の瀬早み紅の裳の裾濡れて鮎か釣るらむ |
| 862 | 人皆の見らむ松浦の玉島を見ずてや我れは恋ひつつ居らむ |
| 863 | 松浦川玉島の浦に若鮎釣る妹らを見らむ人の羨しさ |
| 864 | 後れ居て長恋せずは御園生の梅の花にもならましものを |
| 865 | 君を待つ松浦の浦の娘子らは常世の国の海人娘子かも |
| 866 | はろはろに思ほゆるかも白雲の千重に隔てる筑紫の国は |
| 867 | 君が行き日長くなりぬ奈良道なる山斎の木立も神さびにけり |
| 868 | 松浦県佐用姫の子が領巾振りし山の名のみや聞きつつ居らむ |
| 869 | 足姫神の命の魚釣らすとみ立たしせりし石を誰れ見き一云鮎釣ると |
| 870 | 百日しも行かぬ松浦道今日行きて明日は来なむを何か障れる |
| 871 | 遠つ人松浦佐用姫夫恋ひに領巾振りしより負へる山の名 |
| 872 | 山の名と言ひ継げとかも佐用姫がこの山の上に領巾を振りけむ |
| 873 | 万世に語り継げとしこの丘に領巾振りけらし松浦佐用姫 |
| 874 | 海原の沖行く船を帰れとか領巾振らしけむ松浦佐用姫 |
| 875 | 行く船を振り留みかねいかばかり恋しくありけむ松浦佐用姫 |
| 876 | 天飛ぶや鳥にもがもや都まで送りまをして飛び帰るもの |
| 877 | ひともねのうらぶれ居るに龍田山御馬近づかば忘らしなむか |
| 878 | 言ひつつも後こそ知らめとのしくも寂しけめやも君いまさずして |
| 879 | 万世にいましたまひて天の下奏したまはね朝廷去らずて |
| 880 | 天離る鄙に五年住まひつつ都のてぶり忘らえにけり |
| 881 | かくのみや息づき居らむあらたまの来経行く年の限り知らずて |
| 882 | 我が主の御霊賜ひて春さらば奈良の都に召上げたまはね |
| 883 | 音に聞き目にはいまだ見ず佐用姫が領巾振りきとふ君松浦山 |
| 884 | 国遠き道の長手をおほほしく今日や過ぎなむ言どひもなく |
| 885 | 朝露の消やすき我が身他国に過ぎかてぬかも親の目を欲り |
| 886 | うちひさす宮へ上るとたらちしや母が手離れ常知らぬ国の奥処を百重山越えて過ぎ行きいつしかも都を見むと思ひつつ語らひ居れどおのが身し労はしければ玉桙の道の隈廻に草手折り柴取り敷きて床じものうち臥い伏して思ひつつ嘆き伏せらく国にあらば父とり見まし家にあらば母とり見まし世間はかくのみならし犬じもの道に伏してや命過ぎなむ一云我が世過ぎなむ |
| 887 | たらちしの母が目見ずておほほしくいづち向きてか我が別るらむ |
| 888 | 常知らぬ道の長手をくれくれといかにか行かむ糧はなしに一云干飯はなしに |
| 889 | 家にありて母がとり見ば慰むる心はあらまし死なば死ぬとも一云後は死ぬとも |
| 890 | 出でて行きし日を数へつつ今日今日と我を待たすらむ父母らはも一云母が悲しさ |
| 891 | 一世にはふたたび見えぬ父母を置きてや長く我が別れなむ一云相別れなむ |
| 892 | 風交り雨降る夜の雨交り雪降る夜はすべもなく寒くしあれば堅塩をとりつづしろひ糟湯酒うちすすろひてしはぶかひ鼻びしびしにしかとあらぬひげ掻き撫でて我れをおきて人はあらじと誇ろへど寒くしあれば麻衾引き被り布肩衣ありのことごと着襲へども寒き夜すらを我れよりも貧しき人の父母は飢ゑ凍ゆらむ妻子どもは乞ふ乞ふ泣くらむこの時はいかにしつつか汝が世は渡る天地は広しといへど我がためは狭くやなりぬる日月は明しといへど我がためは照りやたまはぬ人皆か我のみやしかるわくらばに人とはあるを人並に我れも作るを綿もなき布肩衣の海松のごとわわけさがれるかかふのみ肩にうち掛け伏廬の曲廬の内に直土に藁解き敷きて父母は枕の方に妻子どもは足の方に囲み居て憂へさまよひかまどには火気吹き立てず甑には蜘蛛の巣かきて飯炊くことも忘れてぬえ鳥ののどよひ居るにいとのきて短き物を端切るといへるがごとくしもと取る里長が声は寝屋処まで来立ち呼ばひぬかくばかりすべなきものか世間の道 |
| 893 | 世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば |
| 894 | 神代より言ひ伝て来らくそらみつ大和の国は皇神の厳しき国言霊の幸はふ国と語り継ぎ言ひ継がひけり今の世の人もことごと目の前に見たり知りたり人さはに満ちてはあれども高照らす日の朝廷神ながら愛での盛りに天の下奏したまひし家の子と選ひたまひて大御言反云大みこと戴き持ちてもろこしの遠き境に遣はされ罷りいませ海原の辺にも沖にも神づまり領きいますもろもろの大御神たち船舳に反云ふなのへに導きまをし天地の大御神たち大和の大国御魂ひさかたの天のみ空ゆ天翔り見わたしたまひ事終り帰らむ日にはまたさらに大御神たち船舳に御手うち掛けて墨縄を延へたるごとくあぢかをし値嘉の崎より大伴の御津の浜びに直泊てに御船は泊てむ障みなく幸くいまして早帰りませ |
| 895 | 大伴の御津の松原かき掃きて我れ立ち待たむ早帰りませ |
| 896 | 難波津に御船泊てぬと聞こえ来ば紐解き放けて立ち走りせむ |
| 897 | たまきはるうちの限りは謂瞻州人<壽>一百二十年也平らけく安くもあらむを事もなく喪なくもあらむを世間の憂けく辛けくいとのきて痛き瘡には辛塩を注くちふがごとくますますも重き馬荷に表荷打つといふことのごと老いにてある我が身の上に病をと加へてあれば昼はも嘆かひ暮らし夜はも息づき明かし年長く病みしわたれば月重ね憂へさまよひことことは死ななと思へど五月蝿なす騒く子どもを打棄てては死には知らず見つつあれば心は燃えぬかにかくに思ひ煩ひ音のみし泣かゆ |
| 898 | 慰むる心はなしに雲隠り鳴き行く鳥の音のみし泣かゆ |
| 899 | すべもなく苦しくあれば出で走り去ななと思へどこらに障りぬ |
| 900 | 富人の家の子どもの着る身なみ腐し捨つらむ絹綿らはも |
| 901 | 荒栲の布衣をだに着せかてにかくや嘆かむ為むすべをなみ |
| 902 | 水沫なすもろき命も栲縄の千尋にもがと願ひ暮らしつ |
| 903 | しつたまき数にもあらぬ身にはあれど千年にもがと思ほゆるかも去る神龜二年之を作る。但し類を以ての故に更に茲に載す |
| 904 | 世間の貴び願ふ七種の宝も我れは何せむに我が中の生れ出でたる白玉の我が子古日は明星の明くる朝は敷栲の床の辺去らず立てれども居れどもともに戯れ夕星の夕になればいざ寝よと手を携はり父母もうへはなさがりさきくさの中にを寝むと愛しくしが語らへばいつしかも人と成り出でて悪しけくも吉けくも見むと大船の思ひ頼むに思はぬに邪しま風のにふふかに覆ひ来れば為むすべのたどきを知らに白栲のたすきを掛けまそ鏡手に取り持ちて天つ神仰ぎ祈ひ祷み国つ神伏して額つきかからずもかかりも神のまにまにと立ちあざり我れ祈ひ祷めどしましくも吉けくはなしにやくやくにかたちつくほり朝な朝な言ふことやみたまきはる命絶えぬれ立ち躍り足すり叫び伏し仰ぎ胸打ち嘆き手に持てる我が子飛ばしつ世間の道 |
| 905 | 若ければ道行き知らじ賄はせむ黄泉の使負ひて通らせ |
| 906 | 布施置きて我れは祈ひ祷むあざむかず直に率行きて天道知らしめ |